アッシュの同調実験

アッシュの同調実験とは

アッシュの同調実験（英：Asch conformity experiments）とは、1956年にアメリカの社会心理学専攻者であるソロモン・アッシュによって発表された、集団行動についての重要な実験です。この実験は、人々が集団の意見にどのように影響されるかを探求しています。

実験の概要

アッシュは、実験に参加したのはスワースモア大学の男子大学生で、8人のグループが半円形に並んで着席しました。その中で7人はアッシュが設定した「サクラ」と呼ばれる偽の被験者で、ただ1人だけが実際の被験者でした。この実験の目的は、サクラの間違った回答が真の被験者に与える影響を調べることでした。

実験の初めには、全員に左側の基準線を示し、右側に示された3つの直線の中からどれが基準線と同じ長さであるかを口頭で1人ずつ回答させました。サクラ役の6人が先に回答し、真の被験者はいつも最後から2番目に回答するようにされていました。最初の数回ではサクラは正しい回答をしましたが、次第にあらかじめ決められた誤った回答をするようになりました。

この実験は18回繰り返され、その結果、真の被験者の37%がサクラ役の誤った回答に同調したことが明らかになりました。詳細に見ると、参加者の約75%が少なくとも1回は同調行動を示し、逆に全く同調しなかったのは約25%でしたが、全員が常に同調した者はいませんでした。

実験の結論

興味深い点は、この実験では正しい回答に対する報酬や誤った回答への罰は設定されていなかったことです。それにもかかわらず、真の被験者がサクラの間違った答えに同調する傾向が見られた理由として、以下の2つの要因が指摘されます。

1. 自己の意見に対する疑念: サクラの全員が一致して誤った回答をした時、真の被験者は自分の判断が間違っているのではないかと考えることがあります。アッシュが実験後に尋ねたところ、参加者の中にはこのような意見を示した者もいました。

2. 集団への適応: 多数派の意見に同調しようとして、真の被験者がサクラ役に合わせた可能性も考えられています。この推測は、サクラなしで実施した場合には正しい判断ができることからも裏付けられます。さらに、サクラ役が全て間違った回答で一致しなかった場合、同調行動が大きく減少することから、集団の同調圧力が強力に働くことが示されています。

この現象は「斉一性の原理」として知られ、全体の意見が一致する時に異なることを言うのがいかに難しいかを示しています。

批判と再評価

アッシュの実験は、世界中の文化や民族を超えて同様の結果が再現されており、社会心理学の文献でも広く紹介されています。しかし、実施当初からこの実験結果に対する疑問も存在しました。アッシュの論文内の被験者インタビューでは、実験状況に対する疑問の声が多く見られ、追試で同調が起こらなかったケースも報告されています。残念なことに、同調が見られなかった結果は数が少なく、出版バイアスの影響であまり広がっていません。

日本の心理学者による再実験でも、サクラを使用せずに同様の実験を行い、その結果斉一性の原理に疑問が呈されるなどの新たな視点が加わっています。これらの検証を通じて、同調行動のメカニズムはさらに掘り下げられています。

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