アッバース・アラーグチー

セイイェド・アッバース・アラーグチーは、1962年生まれのイランの政治家、外交官です。2024年8月21日にはイラン外務大臣に就任しました。

アラーグチーのキャリアは、イラン・イラク戦争で革命防衛隊に所属していたことから始まります。この経験は、後の外交活動に大きな影響を与えたと考えられます。戦争終結後、1989年にイラン外務省に入省。その後、イスラム諸国会議機構（現・イスラム協力機構）のイラン代表部代理公使としてサウジアラビアで勤務するなど、国際舞台での経験を積みました。1996年には英国ケント大学で政治学博士号を取得しています。

1999年から2003年にかけては駐フィンランド・イラン大使、2007年から2011年までは駐日・イラン大使を務めました。大使在任中は、イランと日本の関係強化に大きく貢献しました。大使就任以前には、政治国際問題研究所（IPIS）の所長や国際関係学院（SIR）の学長も歴任し、学術的なバックグラウンドも持ち合わせています。

2017年12月から2021年9月までは、イラン外務省の政治担当外務次官を務め、同時期には法律・国際問題担当外務次官も兼任していました。特に重要な役割を果たしたのは、P5+1（アメリカ合衆国、ロシア、中国、イギリス、フランス、ドイツ）との核協議におけるイランの首席交渉官としての活動です。この交渉において、アラーグチーはイランの立場を代表し、国際社会との複雑な駆け引きを展開しました。

駐日イラン大使としての活動も特筆に値します。2007年に着任したアラーグチーは、赴任早々、横浜国立大学の学生がイランで誘拐された事件の解決に尽力しました。イラン政府による仲介により、学生は無事解放されました。大使の初期活動として、広島への訪問も記憶に残ります。被爆ドームや原爆資料館を訪問したアラーグチーは、イラン・イラク戦争で体験した化学兵器攻撃の被害と重ね合わせ、核兵器廃絶の重要性を訴えました。また、イランの核開発計画については、平和利用を強調し、日本との協調を訴えました。

2011年3月11日に発生した東日本大震災においても、アラーグチーは迅速な支援を行いました。イラン政府からの緊急援助物資提供に加え、大使夫人や大使館スタッフと共に被災地を訪問し、炊き出しを実施するなど、温かい支援活動を行いました。これらの活動は、日本国民に大きな感銘を与えました。

2011年に大使を退任後も、アラーグチーはイラン外交の中枢に位置づけられ続けました。2024年に外務大臣に就任したことで、その経験と知識を外交のトップとして発揮しています。2022年春の叙勲では旭日重光章を受章しており、日本との友好関係に貢献した功績が認められています。

アラーグチーは、2024年10月に『イランと日本　駐日イラン大使の回顧録2008－2011』を出版しました。この本は、彼自身の経験や見解を通して、イランと日本の関係、そして国際情勢について深く理解するための貴重な資料となるでしょう。彼のTwitterアカウントや、笹川平和財団、日本記者クラブでのインタビュー動画も、アラーグチーの思想や活動を理解する上で参考になります。

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