アナザー・デイ (U2の曲)

1980年、アイルランド出身のロックバンド、U2が発表した楽曲「アナザー・デイ」は、彼らの初期を語る上で欠かせない一曲です。この楽曲は、彼らの実質的なデビュー作品とされる3曲入りEP『スリー』（原題: Three）のリリースに続く形で世に出ました。そのため、U2にとって最初のシングルとして位置づけられることもありますが、バンド自身がライブで『スリー』収録曲の「Out Of Control」を「U2のファーストシングル！」と紹介するなど、その公式な位置づけには少々曖昧さが残ります。

この「アナザー・デイ」は、『スリー』EPのレコーディングセッションと同時期に録音されました。プロデューサーにはチャス・ド・ウェイリーを迎え、制作が進められました。リリース形態も『スリー』と同様で、CBSアイルランドから、アイルランド国内でのみリリースされました。当時アイルランド国外のファンにとっては、なかなか耳にする機会のない希少な楽曲でした。

音楽的な特徴としては、ギタリストのジ・エッジが、後に彼の代名詞ともなるドローン弦という手法を初めて導入した楽曲として知られています。このドローン弦は、特定の弦を開放したまま他の弦を演奏することで、楽曲に持続的な響きや独特の浮遊感、あるいは緊張感をもたらす演奏法です。この初期段階で既に、彼のサウンドの特徴の萌芽が見られる点は興味深いと言えるでしょう。

楽曲そのものについて、ベーシストのアダム・クレイトンはかつて、「U2屈指の名曲とはいいがたい」としながらも、「だけど面白い曲だ」と評価しています。彼自身の言葉が示すように、この楽曲はバンドの代表曲として広く認識されているわけではありません。発表当時、アイルランド国内限定のリリースであったこともあり、音楽チャートにランクインすることもなく、商業的な成功を収めることはありませんでした。また、ライブにおいても演奏される機会は極めて少なく、記録に残っている限りでは、わずか6回しか演奏されなかったとされています。これは、彼らがキャリアを重ねるにつれてセットリストが変化し、より人気のある楽曲が優先されるようになったことや、この楽曲自体が初期衝動に溢れる一方、その後のバンドの音楽性の発展とは異なる方向性を持っていたことなどが影響しているのかもしれません。

このように、発表当時は限られたリスナーにしか届かず、バンド自身もライブでの演奏機会をほとんど設けなかった「アナザー・デイ」ですが、長い時を経て再び注目される機会を得ました。2008年に彼らのデビューアルバム『ボーイ』（Boy）のデラックス・エディションがリリースされた際、ボーナストラックとしてこの楽曲が収録されたのです。これにより、世界のより多くのファンが、U2のごく初期のサウンドに触れることができるようになりました。

このシングルには、以下の2曲が収録されていました。

Another Day
Twilight (Demo version)

外部からの評価としては、アイルランドの音楽雑誌「ホットプレス」が選ぶ1980年の年間ベストシングルにおいて、第22位にランクインしています。これは、商業的には成功しなかったものの、当時のアイルランドの音楽シーンにおいて、一定の注目を集めていたことを示しています。

「アナザー・デイ」は、U2が世界的なバンドへと成長していく道のりの、非常に初期の段階を捉えた楽曲です。その後の彼らのサウンドとは異なる部分も持ちながら、既に後のU2を予感させる片鱗も垣間見える、貴重な記録と言えるでしょう。公式な位置づけや評価が曖昧であった時期を経て、再発見されたこの楽曲は、ファンにとってバンドのルーツを探る興味深い一曲となっています。

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