アニーリング

アニーリング（annealing）

「アニーリング（annealing）」は、「焼きなまし」を意味する英単語です。この言葉は、元の意味である金属の熱処理に加え、情報科学や量子計算といった異なる分野で、比喩的あるいは発展的な意味合いで使われています。それぞれの文脈で具体的な内容は異なりますが、何らかの状態を変化させ、より安定したり、望ましい状態へと近づけたりするプロセスを指すことが多いです。

金属の熱処理：焼なまし

アニーリングの最も基本的な用法は、金属工学における「焼なまし」という熱処理を指します。これは、金属材料を適切な温度に加熱し、一定時間保持した後、ゆっくりと冷却する工程です。焼なましの目的は、金属内部の応力を取り除いたり、結晶構造を調整したりすることで、材料の硬さを和らげたり、加工しやすくしたり、延性を向上させたりすることにあります。材料の品質や特性を調整するための重要な技術です。

情報科学：シミュレーテッドアニーリング（焼きなまし法）

情報科学や計算機科学の分野では、「シミュレーテッドアニーリング（Simulated Annealing）」、日本語で「焼きなまし法」と呼ばれるアルゴリズムがあります。これは、複雑な最適化問題の解を探索するための確率的な手法であり、金属の焼なまし過程を数学的に模倣しています。

このアルゴリズムでは、最適化したい問題をエネルギー関数で表現し、その値が最小となる解（最適解）を探します。現在の解候補からランダムに別の解候補へ状態を遷移させることを繰り返しますが、遷移を受け入れるかどうかは、エネルギー変化と仮想的な「温度」パラメータによって確率的に決定されます。探索の初期段階では高い温度設定により、エネルギーが増加する遷移もある程度許容し、局所的な最適解に囚われずに広い範囲を探索します。徐々に温度を下げていくことで、エネルギーが減少する遷移を選びやすくなり、最終的に最適解またはそれに近い解へと収束していく仕組みです。様々な最適化問題に応用されています。

量子計算：量子焼きなまし法

「量子焼きなまし法（Quantum Annealing）」、または「量子アニーリング」は、前述のシミュレーテッドアニーリングの概念を量子力学の原理で実現する量子計算の手法です。古典的な乱択とは異なり、量子の重ね合わせやトンネル効果といった性質を利用して、最適化問題の解を探索します。

この手法では、最適化問題を量子システムのハミルトニアンとして表現し、システムの状態を初期の簡単な状態から、時間経過とともに問題のハミルトニアンに対応する状態へとゆっくり変化させます（断熱的変化）。システムが常に基底状態（最もエネルギーの低い状態、最適解）に留まるようにすることで、最終的に解を得ることを目指します。特に組み合わせ最適化問題に対して有効性が期待されており、量子コンピューティングの一分野として研究が進められています。

その他の用法

生物学では、DNAやRNAの相補的な鎖が結合する過程をアニーリングと呼ぶことがありますが、これは一般的に「ハイブリダイゼーション」として知られています。

アニーリングは、起源である金属処理から発展し、計算科学の領域で新たな手法を生み出し、さらに量子技術へと応用されるなど、状態を変化させ安定化に向かうという概念が多様な形で展開されている言葉です。

もう一度検索