アノマリサ

『アノマリサ』(Anomalisa)は、2015年に公開されたアメリカ合衆国制作の長編アニメーション映画です。監督はチャーリー・カウフマンとデューク・ジョンソンが務め、デヴィッド・シューリス、ジェニファー・ジェイソン・リー、トム・ヌーナンらが声優として参加しています。第88回アカデミー賞の長編アニメーション映画賞にもノミネートされた注目作です。

物語の中心人物は、カスタマーサービスの専門家であるマイケル・ストーン。彼は一見、恵まれた生活を送っているように見えますが、心に深い孤独を抱えています。妻と子供がいるにも関わらず、日常は退屈で、周囲の人々の顔や声が全て同じように見えてしまうのです。それは、彼自身の心の閉塞感を象徴しているかのようです。

シンシナティでの講演のため出張に来たマイケルは、ホテルでリサという女性に出会います。リサは、マイケルにとって全く異なる、特別な声と顔を持つ唯一の存在でした。マイケルはリサに惹かれ、二人は急速に親密な関係を築いていきます。リサは容姿にコンプレックスを抱えながらも、強い意志と好奇心を持って人生を謳歌する女性です。マイケルにとって、リサの明るさと積極性は、彼が長年失っていたものだったのです。

マイケルは、リサへの強い愛情を感じ、妻と子供を捨てて彼女と人生を共にしようと求婚します。リサもそれを承諾し、二人の未来は明るいもののように見えます。しかし、幸せな時間は長くは続きませんでした。翌朝、朝食を共にしている時、リサが食べ物を口にしたまま話すことにマイケルは耐えられなくなり、リサの声と顔は、他の誰かと同様に変わってしまいます。

この出来事がきっかけとなり、マイケルの精神は崩壊へと向かいます。講演会場では、全ての人々が同じ顔に見える幻覚に襲われ、講演内容は支離滅裂なものになってしまいます。彼は自身の孤独と心の闇を露呈し、壊れゆく精神状態を周囲に知らしめることになります。

結局、二人は別れを迎え、マイケルは実家に戻ります。そこには、同じ顔、同じ声の家族がいました。しかし、マイケルはリサとの旅行の際に購入した、芸者のカラクリ人形だけは違っていることに気づきます。その人形は、リサのような美しい声で「桃太郎」を歌い、液体を出します。しかし、マイケルはその光景を見て、深い悲しみと絶望に打ちひしがれるのです。

『アノマリサ』は、ストップモーションアニメーションという手法を用いて制作されています。この独特の映像表現は、物語の持つ不気味さと繊細さを際立たせています。また、映画全体を覆う独特の雰囲気は、観る者の心に深い印象を残します。

本作は、2015年9月4日にテルライド映画祭で初公開され、アメリカ合衆国では同年12月30日に一般公開されました。日本では劇場公開されず、いくつかの映画祭で上映された後、2016年6月3日にDVDが発売されました。

『アノマリサ』は、現代社会に生きる人間の孤独や、人間関係の複雑さを描いた、深いテーマを持つ作品です。一見、平穏に見える日常の中に潜む、心の闇と葛藤を、美しくも切ないアニメーションで表現した、忘れがたい名作と言えるでしょう。

もう一度検索