アハメッド・ズウェイル

アハメッド・ハッサン・ズウェイル（アラビア語: أحمد زويل、Ahmed Hassan Zewail）は、1946年2月26日にエジプトで生まれ、2016年 8月2日にこの世を去った、エジプト系アメリカ人の傑出した化学者です。彼の最も顕著な貢献は、「フェムト秒化学」と呼ばれる新しい研究分野を開拓したことにあり、この業績に対して1999年にノーベル化学賞が授与されました。

経歴

ズウェイルは、アレクサンドリア南東に位置するダマンフールで生を受け、その後ディスークで少年時代を過ごしました。エジプトのアレクサンドリア大学で化学を学び、1967年に学士号、1969年に修士号を取得しました。更なる学術的な探求を目指し、彼はアメリカ合衆国へと渡り、ペンシルベニア大学で研究を進め、1974年に博士号（Ph.D.）を取得しました。博士研究員としてカリフォルニア大学バークレー校に短期間在籍した後、1976年にはカリフォルニア工科大学（Caltech）に職を得ました。以降、彼はその生涯をカリフォルニアで過ごすことになります。1982年には同大学の化学物理学の教授に昇進し、同年5月にはアメリカ合衆国の市民権を取得しました。また、1996年から2007年までの間、米国国立科学財団（NSF）が支援する分子科学研究所の所長も務めました。

フェムト秒化学とその意義

ズウェイルの科学者としての最大の功績は、化学反応が実際に進行している極めて短い時間スケール、すなわちフェムト秒（1フェムト秒は1000兆分の1秒）で分子の動きを観測する手法であるフェムト秒化学を確立したことです。従来の化学反応の研究は、反応が完了した後の生成物や、比較的安定な中間体を対象とすることが多く、反応途上の分子がどのように変化していくのか、その瞬間を直接捉えることは困難でした。しかし、ズウェイルの研究室は、1979年頃から、非常に短い光パルスを用いる「ポンプ-プローブ分光法」という革新的な技術を開発・応用しました。この手法では、まず「ポンプ光」と呼ばれる超短パルスレーザー光で化学反応を開始させ、次にわずかに遅れて照射される別の超短パルスレーザー光である「プローブ光」で反応途中の分子の状態を観測します。プローブ光の照射タイミングをフェムト秒単位で精密にずらしていくことで、反応が開始されてから生成物が出来るまでの分子の動的な振る舞いや、反応における「遷移状態」と呼ばれる不安定な瞬間的な構造を文字通りコマ送りのように追跡することが可能になりました。この技術は、化学反応のメカニズムを分子レベルで深く理解する上で革命的な進歩をもたらしました。

ノーベル賞受賞とその他の栄誉

アハメッド・ズウェイルは、フェムト秒化学の基礎を築いた功績が認められ、1999年にノーベル化学賞を受賞しました。彼は、モハメド・アンワル・サダト（1978年平和賞）やナギーブ・マフフーズ（1988年文学賞）に続き、エジプト出身者としては3人目のノーベル賞受賞者となりました。ノーベル賞以外にも、ズウェイルは多くの権威ある賞を受賞しています。これには、キング・ファイサル国際賞科学部門（1989年）、ウルフ賞化学部門（1993年）、ピーター・デバイ賞（1996年）、米国科学アカデミー賞化学部門（1996年）、ウェルチ化学賞（1997年）、ライナス・ポーリング賞（1997年）、ベンジャミン・フランクリン・メダル（1998年）、パウル・カラー・ゴールドメダル（1998年）、ウィリアム・H・ニコルズ賞（1998年）、アーネスト・ローレンス賞（1998年）、アルベルト・アインシュタイン世界科学賞（2006年）、プリーストリー賞（2011年）、デービーメダル（2011年）などがあります。

また、彼は多くの栄誉も授与されています。1999年には、エジプトで最も高い勲章であるナイル大綬章（Grand Collar of the Nile）を受けました。さらに、中国の北京大学からは2004年に、イギリスのケンブリッジ大学からは2006年に、それぞれ名誉博士号が贈られています。

私生活と晩年

学生時代に結婚した妻と共にアメリカへ移住し、二人の間には4人の子供がいました。科学研究と教育に生涯を捧げたズウェイル博士は、2016年 8月2日に70歳でその生涯を閉じました。彼の開拓したフェムト秒化学は、現代化学、物理学、生物学など幅広い分野に影響を与え続けています。

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