アビ

アビ（阿比）について

アビは、鳥綱アビ目アビ科に属する種で、学名はGavia stellataです。一般的には「アビ」という名で知られていますが、これはアビ科の鳥全体を指す呼称でもあります。古くから「かずくとり」とも呼ばれ、地方によっては「へいけどり」や「へいけだおし」といった名前でも知られています。これらの名称は、日本の歴史的な出来事、特に壇ノ浦の戦いに由来し、アビの鳴き声が平家の滅亡を悲しむ声として認識されていたことから来ています。また、アビはその足が体の後方に位置していることから、「あとあし」と称されることもあります。

江戸時代中期から「アビ」という名前が使われ始めました。その由来については幾つかの説があり、例えば「はみ（食み）」から派生したという説や、足に水かきがあることに由来する「あしひろ（足広）」や「あしひれ（足鰭）」から来ているとも言われています。

分布と生態

アビは、北アメリカ大陸やユーラシア大陸の北部で繁殖し、冬になると北大西洋や北太平洋の沿岸部へ移動します。日本では、冬期に九州以北に訪れる冬鳥として観察され、北海道では渡り途中の旅鳥としても目撃されます。

アビは全長63cm、翼開長は109cmで、通常は上面が灰黒褐色の羽毛で覆われています。その眼は赤く、嘴は上向きにわずかに曲がっています。夏羽では頭部が灰褐色、前頸部が赤褐色の羽毛で覆われ、冬羽に変わると額から後頸までが黒褐色、喉から腹部にかけては白い羽毛を持ちます。

この鳥は主に海洋に生息し、食性は動物食であり、特に魚類を好んで食べます。

アビ漁の歴史

瀬戸内海に位置する斎島では、古くからアビ類を目印にして行われる「イカリ漁」が行われていました。この漁法は、アビが好物のイカナゴを囲み、それを狙ってマダイやスズキを一本釣りするものです。元禄や寛永の時代から続いてきたこの漁は、広島県でも特に重要な文化的存在でした。アビはこの地域の生態系にとって重要な役割を果たしてきたため、保護の対象でもありました。1931年には「アビ渡来群游海面」として国の天然記念物に指定され、1964年には広島県の県鳥にもなっています。

しかし、かつて300年も続いたアビ漁は今では過去のものとなっています。主な原因として、海砂の過剰採取により海底が破壊され、イカナゴの生息環境が損なわれてしまったことが挙げられます。また、高速船の運行もアビの生息に悪影響を及ぼしました。その結果、1986年を最後にアビ漁は途絶え、現在では瀬戸内海でアビを見ることも少なくなっています。豊浜町の隣島・上蒲刈島では、海岸からアビ類を観察することはできるものの、繁殖数の減少は深刻な状況です。

近年、海砂採取の制限が進んでいますが、残念ながら個体数の回復の見込みは薄いとされています。

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