アビナッシュ・ディキシット

アビナッシュ・カマラカー・ディキシットとは

アビナッシュ・カマラカー・ディキシット氏（1944年8月6日生まれ）は、インドに生まれ、後にアメリカ合衆国の市民権を取得した著名な経済学者です。特に貿易理論、産業組織論、開発経済学、経済政策の政治経済学、そしてゲーム理論といった多岐にわたる分野でその名を馳せています。

教育背景

ディキシット氏の学術的な道のりは、まず母国インドから始まりました。1963年にはボンベイ大学（現在のムンバイ大学）で数学と物理学の学士号（B.Sc.）を取得し、科学分野での基礎を築きました。その後、英国ケンブリッジ大学のコーパス・クリスティ・カレッジに進学し、1965年に数学で優秀な成績を収め学士号（B.A.）を取得しました。経済学への転身は、アメリカのマサチューセッツ工科大学（MIT）大学院で行われ、1968年に経済学の博士号（Ph.D.）を取得しました。このMITでの研究が、後の彼の経済学におけるキャリアの礎となります。

経歴

博士号取得後、ディキシット氏は数々の著名な教育機関で教鞭を取りました。マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア大学バークレー校、イギリスのオックスフォード大学ベリオール・カレッジ（ここではロード・トムソン・オブ・フリート・フェローおよび経済学講師として）に加え、ウォーリック大学でも教員を務めました。

特に、彼のキャリアの大きな部分を占めるのがプリンストン大学での活動です。1989年7月にプリンストン大学に着任して以来、2011年時点まで、ジョン・J・F・シャーレード52記念経済学講座教授の要職にありました。それ以前も同大学で経済学および国際関係論の教授として活躍していました。プリンストン大学での長期にわたる貢献は、多くの後進の研究者を育成し、経済学界に多大な影響を与えています。

教育活動に加え、ディキシット氏はマサチューセッツ工科大学の客員教員を務めたり、国際通貨基金（IMF）やラッセル・セイジ財団といった国際機関や研究機関でも重要な役職に就き、その専門知識を広く活用しました。

学術的貢献と栄誉

ディキシット氏は、経済学界の中心的な人物として、主要な学術組織で指導的な役割を果たしました。2001年には国際計量経済学会の会長を務め、またアメリカ経済学会では2002年に副会長、そして2008年には会長を歴任しました。これらの役職は、彼がそれぞれの分野でいかに重要な影響力を持っていたかを示しています。

彼の卓越した研究業績は、権威あるアカデミーへの会員選出という形でも認められています。1992年にはアメリカ芸術科学アカデミーの会員に選ばれ、さらに2005年には米国科学アカデミーの会員にも名を連ねました。これらの会員資格は、それぞれの分野における最高の栄誉の一つとされています。

また、2006年にはトムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞しています。これは、彼の発表した論文が他の研究者に頻繁に引用され、その学術的影響力が非常に大きいことを示すものです。

主な著作

ディキシット氏の研究成果は、数多くの影響力のある著書として結実しています。以下はその一部です。

"Theory of International Trade" (Victor Norman共著): 国際貿易理論の基礎となる古典的な著作の一つです。
"Investment Under Uncertainty" (Robert Pindyck共著): 不確実性の下での投資決定という重要なテーマを深く掘り下げた著作で、実物オプション理論などに大きな影響を与えました。
"Optimization in Economic Theory": 経済理論における最適化手法を解説した教科書として広く用いられています。
"Games of Strategy" (Susan Skeath共著) や "Thinking Strategically" (Barry Nalebuff共著), "The Art of Strategy" (Barry Nalebuff共著): これらの著作は、ゲーム理論をビジネス、政治、日常生活といった幅広い分野に応用する方法を、専門家でない読者にも分かりやすく解説しており、一般向けベストセラーとなりました。「戦略的思考とは何か」などの邦訳も出版されています。

これらの著作を通じて、ディキシット氏は学術研究の最前線だけでなく、一般社会における経済学や戦略的思考の普及にも大きく貢献しています。彼の研究と教育は、現代経済学の発展に不可欠な役割を果たしています。

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