アフロディテ (ギュスターヴ・モロー)

アフロディテ

概要

『アフロディテ』（仏: Aphrodite）は、フランスの象徴主義を代表する画家、ギュスターヴ・モローによって1870年頃に制作された水彩画です。この作品は、ギリシア神話に登場する愛と美の女神アプロディテ（ローマ神話ではヴィーナス）の誕生をテーマにしています。しかし、ヴィーナスは数多くの芸術作品で描かれてきたため、モローはあえて彼女を描くことを避けています。本作品は、モローが手掛けた数少ないヴィーナスの作品の一つで、現在はアメリカのケンブリッジにあるフォッグ美術館に収蔵されています。

制作背景

本作は、アマチュア写真家であるエリザ・デ・ロミリーからの依頼によって制作されました。彼女は夫に贈る新年のプレゼントとして、この作品をモローにお願いしました。エリザはモローの作品の多くの写真も撮影しており、彼との親しい関係がうかがえます。作品は600フランで制作され、その後、彼女の夫フェリックスによってモローの元に返されています。

作品の特徴

作品の中で、泡の中から生まれたばかりのヴィーナスが描かれており、彼女は左手で髪を風になびかせ、下を向いた横顔を見せています。その美しい肢体は独自の魅力を放ち、両脚はまるで空中に浮いているかのような印象を与えます。また、青い海が乳白色の肌を一層引き立てています。ヴィーナスの足元には1人のプットーが松明を掲げており、これは生命や愛のほとばしりを象徴しています。背景には物語的要素を排し、水平線のみが描かれている点が興味深いです。

モローはタイトルに「アフロディテ」というギリシア語の名前を選んでいますが、その理由は正確には分かっていません。おそらく、泡から誕生する女神を強調したかったためではないかと考えられます。また、作品はドミニク・アングルの『海から上がるヴィーナス』から影響を受けた部分が見られます。アングルの作品でも同じようにヴィーナスは泡の中に立ち、足元にいるプットーが示す象徴性も共通しています。

ヴィーナスの姿勢

ヴィーナスが下を向いた横顔で描かれている点に関しては、テオドール・シャセリオーの影響も確認されます。モローはイタリア留学の際にサンドロ・ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』を模写したこともあり、彼のスタイルも取り入れられています。

来歴

エリザの依頼の後、この作品はモローのもとを離れ、さまざまなコレクターや美術商の手を経て、最終的にはグレンビル・L・ウィンスロップのコレクションに加わりました。彼の死後、コレクションはハーバード大学のフォッグ美術館に寄贈され、今日も多くの人々に鑑賞されています。

まとめ

モローの『アフロディテ』は、神話を題材にした美術作品として、彼の技術や独自の視点が色濃く表れています。画面に描かれたヴィーナスは、美と愛のシンボルとして、見る者を魅了し続けています。

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