アペイダース

アペイダース (Ἀφείδας, Apheidās)

ギリシア神話に登場する男性名。同名の人物が複数存在することが知られており、その出自や関わる伝説はそれぞれ異なる。特に以下の五人がよく言及される。

1. アルカスの子アペイダース

アルカディア地方を治めた王アルカスとその妻、あるいはニュンペーとの間に生まれた息子。エラトス、アザーンを兄弟に持つ。彼自身も後に子をもうけ、アレオス、ステネボイア、そしてレウコーネーの父となった。父アルカスが自身の支配する広大なアルカディアの国土を三分割して息子たちに与えた際、アペイダースはテゲアーとその周辺にあたる地域を相続した。この継承に基づき、テゲアーは後世の詩人たちによって「アペイダースの籤（くじ）」とも呼ばれるようになった。また、アペイダースはテゲアーの基礎を築いたとされる九つの地区の一つであるアペイダンテスを創設したとも伝えられている。旅行家パウサニアスの記録によれば、テゲアーの人々はスパルタに対する戦勝を記念して、デルポイの聖域に奉納した彫像群の中に、アペイダース、父アルカス、兄弟エラトス、アザーンらと共に彼の像も含まれていたという。

2. ポリュペーモーンの子アペイダース

アリュバスの王ポリュペーモーンの息子であり、エペリトスという息子がいたと伝わる。ホメロスの叙事詩『オデュッセイアー』において言及される人物。長年故郷を離れていたオデュッセウスが、帰還後に父ラーエルテースと再会した際、自身の正体を隠すために偽りの身分を名乗る場面がある。この時、オデュッセウスは自分がエリュトスという名前であり、アペイダースという名の王の息子であると偽ったことから、この人物の存在がうかがえる。

3. ケンタウロスのアペイダース

ギリシア神話に登場する半人半馬の怪物、ケンタウロス族の一員。ラピテース族の王ペイリトオスがテッサリアー地方のイオールコス王女ヒッポダメイアを娶った際の結婚披露宴に出席した多数のケンタウロスの一人として知られる。この披露宴の席で、酒に酔ったケンタウロス族がヒッポダメイアを含む女性たちに乱暴を働き、ケンタウロス族とラピテース族の間で激しい争乱が勃発した。詩人オウィディウスの『変身物語』によれば、アペイダースはこの騒動の最中に杯を手に持ったまま泥酔し、その場に眠り込んでしまっていた。その無防備な姿を見咎められたか、あるいは巻き込まれる形で、ラピテース族の一人ポルバースに投げられた槍が彼の喉を貫き、アペイダースは眠ったまま命を落とした。

4. オクシュンテースの子アペイダース

アテーナイの王オクシュンテースの息子。オクシュンテースには、アペイダースの他にテューモイテースという息子がいたが、こちらは異母兄弟であった。父オクシュンテースが世を去った後、アペイダースがその跡を継いでアテーナイの王位に就いた。しかし、王位を自らのものとしたいと願う異母兄弟のテューモイテースによって殺害されてしまう。この非業の死により、アペイダースの短い治世は終わり、テューモイテースが王位を簒奪することになった。

5. モロッシアの王アペイダース

エーピロス地方にあったモロッシアの王として伝わる人物。自身の支配下にある地域の一部に「アペイダンテス」という名を付けたという伝承がある。この地名は、アルカスの子アペイダースがアルカディア地方のテゲアーに創設したとされる地区名と同名である点が興味深い。モロッシアにおけるこの「アペイダンテス」が具体的にどの地域を指すのか、またその命名の由来については詳細が不明な点が多い。

これらのアペイダースたちは、それぞれ異なる時代、異なる地域、異なる文脈で語られる人物であり、同じ名前を持ちながらも、その伝説や役割は全く異なっている。

もう一度検索