アポロAS-203

アポロAS-203：サターンIBロケットの燃料挙動実験

アポロAS-203は、アメリカのアポロ計画において、サターンIBロケットの2度目の発射実験として実施されました。非公式にはアポロ2号とも呼ばれるこのミッションは、月面着陸に向けた重要なステップでした。アポロ宇宙船は搭載せず、ロケット自体の性能を詳細に検証することを目的としていました。

ミッションの目的

AS-203の主な目的は、サターンIBロケットの二段目であるS-IVBロケットの燃料タンク内で、無重力状態における液体燃料がどのように挙動するかを調査することでした。S-IVBは、地球周回軌道から月へ向かうための軌道投入時に、宇宙空間で再点火する必要があるため、燃料の挙動を正確に把握することが不可欠でした。このため、タンク内には83個ものセンサーと2台のテレビカメラが設置され、詳細なデータ収集が行われました。この実験を通じて、将来の月ミッションにおけるロケットの信頼性を高める狙いがありました。

さらに、S-IVB上部に、ロケットの飛行を自動的に制御する自動制御装置が初めて搭載されました。この装置のテストも、ミッションの重要な目的の一つでした。

ミッションの準備

当初、AS-203はAS-202に続くミッションとして計画されていましたが、アポロ宇宙船の司令・機械船の準備が遅れたため、AS-203が先行して実施されることになりました。第二段S-IVBは1966年4月6日にケープ・カナベラルに到着し、第一段はその6日後、自動制御装置はさらに2日後に到着しました。4月19日から37B発射台での設置作業が開始されましたが、以前のAS-201ミッションでも発生した基板の故障が再発し、8,000個もの部品を交換する必要が生じました。

当時、ケネディ宇宙センターの発射台には、39AにサターンV型ロケットのモックアップ、34にAS-202、そして37BにはAS-203と、同時に3基のロケットが並んでいました。これは、アメリカの宇宙開発への熱意を象徴する光景でした。

飛行の実施

1966年7月5日、AS-203は予定通りに発射され、高度188kmの地球周回軌道に投入されました。S-IVBのタンク内の燃料挙動は、事前の予測とほぼ一致しており、再点火も問題なく行われました。ロケットはその後、約4周にわたって観測され、構造的な限界を調査するために、タンク内の圧力が徐々に高められました。限界値を超えた瞬間にロケットは爆発し、機体は木っ端微塵となりましたが、すべての実験は成功裏に完了しました。

S-IVBを製造したダグラス社は、このミッションの結果を受けて、「ロケットの準備は万端であり、いつでも月へ行くことができる」と自信を表明しました。AS-203の成功は、アポロ計画を大きく前進させる重要な一歩となりました。

まとめ

AS-203は、サターンIBロケットの性能を徹底的に検証し、将来の月ミッションに向けた重要なデータを収集したミッションでした。特にS-IVBの燃料挙動の解明は、その後のアポロ計画の成功に不可欠でした。このミッションを通して、宇宙開発における技術的な課題を克服し、有人月面着陸という壮大な目標を達成するための確かな基盤を築いたと言えるでしょう。

参考資料

* Apollo Maniacs（アポロ・マニアックス）

もう一度検索