アムピノモス

アムピノモス（古希: Ἀμφίνομος, Amphinomos）は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場するギリシア神話の人物です。彼は、イタケー王オデュッセウスの妃ペーネロペーに求婚するために宮殿に居座った、多くの求婚者たちの一人として知られています。

アムピノモスは、アレティアスの子ニーソスの息子であり、ドゥーリキオンという島の有力な指導者でした。彼は自身の島から求婚者の一団を率いてイタケーへと渡り、ペーネロペーの心を射止めようと試みました。しかし、他の多くの求婚者たちが粗暴で無作法であったのに対し、アムピノモスは彼らとは一線を画していました。彼は求婚者たちの中でも特に人柄に優れ、思慮深く、公正な振る舞いをしました。そのため、苦境に立たされていた王妃ペーネロペーからも一定の敬意や好意を寄せられていました。ペーネロペー自身が、アムピノモスに対して他の求婚者とは異なる穏やかな態度を示した記述も見られます。

オデュッセウスの息子である若き王子テーレマコスが、父の消息を求めて旅に出て無事に帰国した際、求婚者たちは彼の存在を危険視し、その殺害を企てます。多くの求婚者がこの邪悪な計画に賛同する中で、アムピノモスは当初、テーレマコス殺害に強く反対の意を示しました。しかし、彼は同時に「もし神々の意志がそれを許すならば、自分が真っ先にテーレマコスを討ち取ろう」とも発言しており、完全に計画から距離を置くことはありませんでした。

物語が進み、長い放浪の末に変装してイタケーへ帰還したオデュッセウスが、宮殿で物乞いのイーロスと対決し、打ち負かす場面があります。この時、変装したオデュッセウスの力強さに感銘を受けたアムピノモスは、彼にパンと酒を恵みました。オデュッセウスはアムピノモスの善良な人柄に気づき、彼の破滅を予見して密かに忠告を与えます。オデュッセウスは、自分が間もなく帰還し、求婚者たちに厳しい報復を行うであろうことを示唆し、アムピノモスに対して、手遅れになる前に故郷ドゥーリキオンへ帰るよう強く勧めました。アムピノモスは、オデュッセウスの言葉に何か不吉なものを感じ取りながらも、運命に導かれるかのようにイタケーを離れることができませんでした。

求婚者たちが変装したオデュッセウスに対して暴挙に出る場面でも、アムピノモスはその場を収めようと努めています。例えば、傲慢なエウリュマコスがオデュッセウスに足台を投げつけたとき、オデュッセウスはアムピノモスの足元に逃れ、アムピノモスは騒ぎを鎮静化させようと動きました。

再び、求婚者たちがテーレマコスを待ち伏せて殺害しようという計画が持ち上がった際、アムピノモスは鳥占いの結果、神意がこの計画を認めていないことを指摘し、求婚者たちに計画の中止を促しました。このように、彼は他の求婚者たちのように盲目的に悪事に走るのではなく、ある程度の理性や敬虔さ、そして穏健さを示していました。

しかし、オデュッセウスが遂に変装を解き、息子テーレマコスや忠実な家臣たちと共に求婚者たちへの報復を開始したとき、アムピノモスもまたその場に居合わせました。求婚者たちが次々と倒されていく中で、彼はエウリュマコスに続いてオデュッセウスに斬りかかろうとします。求婚者たちのリーダー格であるアンティノオスやエウリュマコスに比べれば敵対心は薄かったかもしれませんが、それでも求婚者の一員としての立場からオデュッセウスに刃向かわざるを得なかったようです。そして、その試みは息子テーレマコスによって阻まれ、アムピノモスはテーレマコスの槍によって討ち取られました。これは、数ある求婚者の中でも際立った人物であった彼が、避けがたい運命の犠牲となった瞬間でした。

なお、一部の異説では、アムピノモスがペーネロペーに対して不適切な行為を働いたため、激怒したオデュッセウスによってペーネロペー自身が殺されたという、ホメロスの物語とは異なる伝承も存在します。しかし、一般的にはホメロスの叙述、すなわちアムピノモスが求婚者誅殺の際にテーレマコスによって討たれたという話が知られています。

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