アメリカオオアカイカ

アメリカオオアカイカ（Dosidicus gigas）の概要

アメリカオオアカイカ、またの名をハンボルトイカは、アカイカ科に属する大型のイカです。英名の「Humboldt squid」は、主に生息する海域にフンボルト海流が流れていることに由来しています。また、レッドデビル・スクイッドという呼称でも知られています。この生物は肉食性で、東部太平洋の深海に生息しています。

分布と生息環境

アメリカオオアカイカは、主にティエラ・デル・フエゴからカリフォルニアにかけての、200から700メートルの深さに生息しています。近年では、生息域が北へ移動していることが観察されており、これは上位捕食者の減少や水温の上昇が一因とされています。特に、1997-98年のエルニーニョ現象では初めてモントレー湾での観察が報告され、その後も小規模なエルニーニョの際に観察されることがありました。2004年には、ワシントン州のロングビーチ半島に数千の個体が漂着する出来事もありました。

最近の研究によると、今世紀末には海洋の酸性化が進むことによって、アメリカオオアカイカの代謝が約31%、活動性が約45%低下し、より酸素濃度の高い浅い水域へ移動することが予測されています。

形態的特性

アメリカオオアカイカは、外套長が最大で1.75メートル、体重が50キログラムに達することがあります。腕には100から200個の小さな吸盤が並び、触腕部分にはさらに大きな吸盤が4列に配置されています。これらの吸盤には角質環上に8から25個の歯があります。また、色素胞は外套膜で300個/cm²、鰭の上面で800個/cm²と、かなりの密度で存在します。

このイカは、重量構成として外套が40%、腕が14%、鰭が12%、頭部が5%、外皮が3%、残りの26%が内臓を占めるという特徴があります。

生態と行動

この種は肉食性で、小魚や甲殻類、他の頭足類、さらにはカイアシ類を主に捕食します。特に頭足類に対しては、集団で獲物を襲う行動が観察されていますが、個体間で協力して行動しているわけではないと考えられています。彼らはおおよそ1,200個体の群れを作り、漏斗と鰭を利用して最高24km/hの速度で泳ぐことができます。

意外にも、活発に動くのは主に摂食の際だけであり、彼らは好奇心旺盛で、知的な行動をみせることが観察されています。特に、電子タグによる研究では、日周鉛直移動を行うことが確認されており、昼間は深海に留まりつつ、夜間に浅い水域へ移動します。月の満ち欠けにも影響を受け、満月の際は深い水に留まることが多く観察されています。

コミュニケーションと色彩変化

アメリカオオアカイカは、驚異的な速度で体色を変化させる能力を持っています。赤紫色から白までの色彩を変えるのに0.15秒しかかからず、色素胞を利用して個体間のコミュニケーションに使用していると考えられています。全身の色を変えるだけでなく、鰭や腕の一部も色を変えることができ、複雑なパターンを描くことも可能です。

人間との関わり

アメリカオオアカイカは、基本的には無害ですが、閃光の刺激に応じて人を攻撃することもあります。商業目的で漁獲されることが多く、特にメキシコ、ペルー、チリなどがその主要な漁場となっています。なお、他の海洋生物を襲うことでも知られ、激しく色を変えるため、メキシコの漁師たちからは「赤い悪魔」と呼ばれています。

彼らは食用としても人気が高く、輸出も行われています。食用である理由は、他の大型種とは異なり、浮力を得るためにアンモニアを蓄積しない点にあります。このように、アメリカオオアカイカは生態系の中で重要な役割を果たしつつ、人間との密接な関係を持つ生物なのです。

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