アメリカ合衆国鉄道管理局

アメリカ鉄道管理局 (USRA): 戦時下の鉄道改革と標準機関車開発

第一次世界大戦下の1917年、アメリカ合衆国は戦争遂行に不可欠な物資輸送力の不足に直面していました。この深刻な状況を打開するため、1917年から1920年にかけて、アメリカ鉄道管理局（United States Railroad Administration、略称USRA）が設立されました。USRAは、全米の鉄道網を政府管理下に置くことで、効率的な輸送体制の構築を目指しました。

USRAによる鉄道網の統合と効率化

USRA発足後、迅速な改革が断行されました。まず、全米の鉄道網は東部、西部、南部の3つの地域に分割され、地域ごとの運行管理が行われるようになりました。重複する旅客サービスの削減、コストと人員削減のための寝台車運行の縮小、競合路線の統合など、大胆な合理化策が実施されました。さらに、駅、設備、車両の共有化も推進され、資源の有効活用が図られました。

USRA標準型蒸気機関車の開発

USRAによる最も大きな功績の一つは、標準型蒸気機関車の開発です。10万両を超える車両と1930両以上の蒸気機関車が新規発注され、総額3億8000万ドルという巨額の投資が行われました。USRAは、工期短縮と部品の標準化を徹底することで、効率的な生産体制を確立しました。

開発された12種類の標準型蒸気機関車は、当時としては最先端の技術を結集した設計であり、運用効率の大幅な向上に貢献しました。これらの機関車は、その優れた性能から、USRAの解散後も各鉄道会社で長年にわたって使用され続け、現在でも一部が保存されています。

USRA標準型蒸気機関車の種類

USRAは、様々な用途に対応した多様な標準型機関車を設計しました。主な形式は以下の通りです。

入換用機関車: 0-6-0、0-8-0
マレー式機関車: 2-6-6-2、2-8-8-2
旅客用機関車: 2-8-2、2-10-2、4-6-2、4-8-2（ライト型とヘビー型）
ライト型は軸重54,000lb (24,500kg)で、多くの路線で使用可能でした。
ヘビー型は軸重60,000lb (27,200kg)で、より頑丈な線路の路線向けでした。
具体的な製造両数 (例):
USRA 0-6-0: 255両以上
USRA 0-8-0: 175両以上
USRA ライト 4-6-2 "パシフィック": 81両
USRA ヘビー 4-6-2 "パシフィック": 20両
USRA ライト 2-8-2 "ミカド": 625両 (最も生産量が多かった)
USRA ヘビー 2-8-2 "ミカド": 233両
* USRA 2-8-8-2: 106両 (ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道は戦後も改良を加え製造継続)


USRA標準型貨車の開発

USRAは機関車だけでなく、貨車の標準化にも取り組んでいました。片開き扉と両開き扉の2種類の汎用有蓋車を設計し、当時の貨車設計における技術的課題と多様なニーズに対応しました。 20世紀初頭の貨車設計は、木材と鋼材を組み合わせた複合構造が一般的でした。ジョン・ホワイトの著書『アメリカの貨車』にもあるように、木材の持つ特性は、鋼鉄製が主流となった後も活用されていました。

USRAの遺産

USRAは、第一次世界大戦という非常時における政府による鉄道管理の試みでした。短期間の活動でしたが、その成果は、鉄道輸送の効率化、標準化、そして技術革新という形で、戦後のアメリカ鉄道の発展に大きな影響を与えました。USRA標準型蒸気機関車は、その性能の高さと生産量の多さから、長年にわたって活躍し、現在でもアメリカ各地の博物館などでその雄姿を目にすることができます。 USRAの取り組みは、現代の鉄道運営にも通じる、重要な歴史的遺産と言えます。

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