アラベスク (シューマン)

ロベルト・シューマンの「アラベスク ハ長調 作品18」は、1839年に発表されたピアノ曲で、シューマンがウィーン滞在中に作曲されました。この曲は、その優美で繊細なテクスチュアが特徴で、当時のウィーンの音楽趣味を反映していると考えられています。シューマンは、この作品を「か弱い、女性向けの」と表現し、その美しさを強調しています。

作曲の背景には、シューマンがウィーンで音楽活動を広げようとした試みがありました。彼は『新音楽時報』の拡大を目指してウィーンに滞在しましたが、その目的は達成できませんでした。しかし、その滞在中に多くの音楽関係者と出会い、創作活動は非常に活発でした。この時期には、「アラベスク」の他に、『花の曲』、『フモレスケ』、ピアノソナタ第2番の改訂版終楽章、そして『ウィーンの謝肉祭の道化』の前半部分など、数々の重要な作品が生まれています。

シューマンは、1839年1月26日付のクララ・ヴィーク宛の手紙の中で、この作品について「主題のない変奏曲」と表現しています。彼は当初、この作品を「花飾り」と名付けるつもりでしたが、最終的には「アラベスク」というタイトルで出版しました。クララはこの「花飾り」が『アラベスク』を指すと考えていましたが、形式的には『花の曲』の方がより「変奏曲」に近いとの指摘もあります。また、「ロンドレット」という別の曲がこの「アラベスク」を指すという説もあります。この作品は、友人である陸軍少佐夫人フリードリケ・ゼーレに『花の曲』と共に献呈されました。

楽曲構成は、A-B-A-C-A+コーダというロンド形式で、付点リズムと内声部が絡み合う繊細な主題が特徴です。中間部には、ホ短調とイ短調の「ミノーレ」と記されたエピソードが挿入されています。特にホ短調のエピソードの後に続く移行部や、コーダに見られる細やかなテンポの変化は、シューマン独自の魅力であり、夢見るような穏やかな音楽が展開されます。シューマンは、この作品を「宝石のように美しい」「強い説得力をもった密度の濃い作品」と評しており、その音楽的価値を高く評価していました。

この作品は、ウィーンの「軽い」趣味を意識して作られたと推測されており、シューマン自身も「ウィーンのご婦人皆のお気に入りの作曲家という地位に上りつめたい」と述べています。この言葉からも、シューマンが当時の聴衆の嗜好を意識していたことが伺えます。今日では、この曲はシューマンの代表的なピアノ曲の一つとして広く知られており、多くのピアニストによって演奏され、多くの人々に愛されています。

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