アリエル・ルービンシュタイン

アリエル・ルービンシュタイン（Ariel Rubinstein, 1951年4月13日 - ）は、イスラエル出身の経済学者です。経済理論、特にゲーム理論や限定合理性の分野において、その革新的な貢献で国際的に広く知られています。現在、彼はテルアビブ大学およびニューヨーク大学の経済学部で教授を務めています。

経歴と教育

ルービンシュタインは、1972年から1979年にかけてヘブライ大学で数学と経済学を修めました。この期間に培われた厳密な分析手法と経済学の知識が、その後の彼の独創的な研究の基盤となりました。

主要な業績

彼の学術的なキャリアにおいて最も重要な業績の一つに、交渉のゲーム理論における貢献が挙げられます。特に、1982年に発表した論文「Perfect equilibrium in a bargaining model」で提示されたモデルは、後にルービンシュタイン交渉モデルとして経済学の標準的な分析ツールとなりました。このモデルは、二人のプレイヤーが時間を通じて交互に提案を行い、合意を目指す交渉過程を、完全情報の展開形ゲームとして表現しています。モデルの重要な仮定の一つは、プレイヤーが将来受け取る利得を時間経過に伴って割り引くという時間選好の概念を取り入れたことです。彼は、プレイヤーの割引率などの条件の下で、この交渉ゲームがただ一つだけ部分ゲーム完全均衡を持つことを数学的に証明し、その均衡解の性質を詳細に分析しました。この分析により、交渉の結果がプレイヤーの相対的な割引率や交渉の構造にどのように依存するかが明確に示され、その後の交渉理論研究に決定的な影響を与えました。

また、ルービンシュタインはゲーム理論の教育においても重要な役割を果たしています。マーティン・J・オズボーンとの共著である「A Course in Game Theory」（1994年）は、世界中の大学で標準的な教科書として広く採用されています。この著作はゲーム理論の基礎から応用までを網羅しており、その明快な解説と厳密な分析から高い評価を得ており、2014年3月時点で5300回以上引用されるなど、研究者や学生にとって不可欠な文献となっています。彼の研究は、人間が必ずしも完全に合理的に行動するわけではないという観点から、限定合理性のモデリングにも及び、経済主体の意思決定の現実的な記述に貢献しています。

受賞歴

ルービンシュタインは、その傑出した学術的功績により、数々の名誉ある賞や会員資格を授与されています。主なものを以下に挙げます。

1994年：アメリカ芸術科学アカデミー外国人名誉会員
1995年：イスラエル科学・人文アカデミーメンバー
1995年：アメリカ経済学会外国人名誉会員
1985年：計量経済学会終身特別会員
2004年：計量経済学会会長
2002年：Tilburg University 名誉学位
2002年：イスラエル賞
2004年：アーウィン・プレイン・ネンマーズ経済学賞
2006年：EMET Prize
2010年：ロスチャイルド賞
2019年：クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞

これらの受賞は、彼の研究が経済学の幅広い分野において、国際的に高く評価されていることの証です。

主な著作物

ルービンシュタインは多くの重要な著作を出版しており、その研究成果を広く共有しています。代表的な著作には以下のものがあります。

Bargaining and Markets, with Martin J. Osborne, Academic Press, 1990.
A Course in Game Theory, with Martin J. Osborne, MIT Press, 1994.
Modeling Bounded Rationality, MIT Press, 1998.
Economics and Language, Cambridge University Press, 2000.
Lecture Notes in Microeconomic Theory: The Economic Agent, Princeton University Press, 2006.
Economic Fables, OpenBook Publishers, 2012.
『ルービンシュタインゲーム理論の力』 (松井彰彦監訳), 東洋経済新報社, 2016. (原著: AGADOT HAKALKALA, Kineret, Zmora, Bitan, 2009.)

これらの著作は、彼の主要な研究分野であるゲーム理論、交渉理論、限定合理性、経済学と言語の関係など、多岐にわたる貢献を概観することができます。特に日本語訳が出版された『ルービンシュタインゲーム理論の力』は、彼の思想や研究手法を知る上で貴重な一冊です。

もう一度検索