アリルイソチオシアネート

アリルイソチオシアネート (AITC)の概要

アリルイソチオシアネート（AITC）は、化学式CH₂=CH-CH₂-NCSで表される有機化合物で、無色の液体です。この物質は主にマスタードやワサビの辛味成分として知られています。AITCは、2種類のイオンチャンネルであるTRPA1とTRPV1に関連して、その辛味や催涙作用を発揮します。水にはわずかに溶けていますが、ほとんどの有機溶媒に対しては高い可溶性があります。本物質はアリル芥子油とも呼ばれています。

生合成と生理機能

AITCは、主にクロガラシやカラシナの種子から抽出されます。種子が壊れることにより、内部に含まれるミロシナーゼと呼ばれる酵素が活性化し、シニグリンという成分が分解されることでAITCが生成されます。この過程は、植物が草食動物から身を守るための防御機能と考えられています。AITCそのものは植物には有害ですが、無害な状態で貯蔵され、草食動物が摂取した際に酵素によって放出されることで、植物を守る機能を果たします。

また、AITCは植物の成長にも影響を及ぼし、エチレンの生成を抑えることで老化を進行させる役割を果たすことが確認されています。エチレンは植物の成熟や老化に関与する重要なホルモンであり、その生成を抑えることで、植物の健康を保つための重要な成分となっています。

合成と利用

AITCは、塩化アリルとチオシアン酸カリウムとの反応により合成することが可能です。この反応により得られる物質は、一般に「合成マスタードオイル」と呼ばれ、さまざまな用途で使用されます。さらに、種子を乾留することで約92%の純度を持つ天然のマスタードオイルが得られ、香料として利用されます。合成マスタードオイルは、農作物保護のために殺虫剤や殺菌剤として広く使用されています。これに加えて、特定の火災警報器にも組み込まれており、AIDを嗅ぐことで深い眠りから確実に目覚める効果が認められています。

このほか、AITCはヒアリの忌避剤や物品の防虫剤としても利用されていることがあります。また、加水分解により、アリルアミンという別の化合物へと変化することがあります。

安全性

AITCの安全性も重要なポイントです。ラットを使用した実験による経口投与においてのLD50（致死量50%）は339mg/kgと報告されています。また、マウスに対する経皮投与では80mg/kgという数値が示されています。適切な使用法を守ることが必要です。

抗腫瘍作用

最近の研究では、AITCにはがん予防に関連する心理的・生理的特性が示されており、in vitro（試験管内）および動物実験において興味深い結果が得られています。これにより、AITCは将来的ながん治療に役立つ可能性が期待されています。

関連項目

AITCは、他の辛味成分と同様に、自然の食材や香辛料に含まれており、ピペリン（黒胡椒の成分）、カプサイシン（トウガラシの成分）、およびアリシン（ニンニクの成分）などとともに注目されています。

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