アルツァーノの聖母

『アルツァーノの聖母』は、ルネサンス期ヴェネツィア派の巨匠ジョヴァンニ・ベッリーニが1485年から1487年頃に制作した油彩の絵画で、彼の後期の代表作の一つです。元々はベルガモ近郊の教会に飾られていましたが、現在はベルガモのアッカデミア・カッラーラに所蔵されています。ベッリーニが描いた多くの聖母子像の中でも、最も有名で保存状態が良い作品として知られています。

この作品では、聖母マリアが垂れ幕の前に座り、幼子イエスを膝に乗せています。マリアは息子の背中を支え、優しく見つめています。二人の間には愛情深く、親密な絆が感じられます。マリアの手前には、赤い大理石の欄干があり、その上に梨が一つ置かれています。この梨は、エデンの園の禁断の果実を象徴しており、キリストが人類を原罪から救済するという暗示です。欄干の中央には、ベッリーニの署名が記されたカルテリーノが貼られています。

背景には、フランドル絵画のような細密さで描かれた風景が広がります。左側には、巡礼者を示すホタテ貝の殻を持つ二人の旅人が休息しており、遠方には騎士と兵士、湖と小さな都市が見えます。右側には城砦があり、その外では二人の男が会話をしています。これらの風景や梨は聖母マリアの象徴であり、ベッリーニは讃美歌や語録から着想を得て、自然な描写に昇華させています。これにより、鑑賞者は隠喩を理解しつつも、その自然な美しさに魅了されます。

この作品は、ヴェネツィアのアカデミア美術館にある『赤い智天使の聖母』や『アルベロッティの聖母』の原型になったと考えられています。また、ベッリーニの聖母画としては珍しく、工房による複製は確認されていません。

作品の来歴としては、一説には建築家のアレッシオ・アグリアルディが発注したとされています。また、聖アンナ修道院を設立したルクレツィア・アリアルディ・ヴェルトーヴァが寄贈したという説もあります。1648年には、教会に設置されていたことが記録されています。その後、絵画は教会を離れ、司祭の手に渡りました。1869年には、イギリスの画家が買い付けを試みましたが失敗し、1872年に伯爵夫人によって美術収集家に売却されました。最終的に、美術史家ジョヴァンニ・モレッリの遺贈によってアッカデミア・カッラーラに所蔵されることになりました。

『アルツァーノの聖母』は、ベッリーニの優れた技術と深い精神性が融合した傑作です。聖母マリアと幼子イエスの愛情深い姿は、観る人の心を優しく包み込み、ルネサンス美術の魅力を今に伝えています。

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