アルヌール1世 (フランドル伯)

アルヌール1世（Arnoul I, 893/9年 - 965年3月27日）は、中世フランドルの有力な伯であり、「大伯」（le Grand）として知られています。彼の生涯は、フランドル伯領の拡大と、当時の政治的混乱の中で巧みに立ち回ったことで特徴づけられます。

生い立ちと家系

アルヌール1世は、フランドル伯ボードゥアン2世と、ウェセックス王アルフレッド大王の娘エルフスリュスの間に生まれました。この血筋により、彼はアングロサクソンイングランド王家の子孫であるとともに、父方を通してカール大帝の血も引いていました。アルヌールの名前は、カロリング家の祖先であるメッツ司教アルヌルフ、あるいは父が支持した東フランク王アルヌルフにちなんで名付けられたと考えられています。

フランドル伯としての統治

918年に父ボードゥアン2世が死去した後、アルヌール1世はフランドル伯位を継承し、弟のアダロルフはブローニュ伯となりました。しかし、アダロルフが933年に亡くなると、アルヌール1世はブローニュ伯も兼ねましたが、後に甥のアルヌール2世にブローニュ伯位を譲りました。彼は「神の恩寵による伯」と自称し、その権威を強調しました。

アルヌール1世の治世において、フランドルの支配領域は南へと大きく拡大しました。彼は、アルトワ、ポンチュー、アミアン、オストゥルヴァンの全部または一部を支配下に置き、その領土を大きく広げました。この拡大政策は、シャルル3世とロベール1世の対立、そして後のルイ4世と貴族たちの対立といった、当時の政治的混乱を巧みに利用したものでした。

また、アルヌール1世はブルッヘを政権の中心とし、主要な貿易拠点としての町の発展に大きく貢献しました。ブルッヘは、彼の統治下で経済的に大きく成長しました。

ノルマン人との対立と晩年

南への領土拡大を進める中で、アルヌール1世は北の辺境を脅かすノルマン人と衝突しました。この対立は、942年にアルヌール1世の臣下によるノルマンディー公ギヨーム1世の殺害という悲劇につながりました。しかし、ヴァイキングの脅威はアルヌール1世の晩年には低下し、彼はフランドルの改革に力を注ぐことができました。

964年3月27日、アルヌール1世は死去しましたが、一説にはノルマンディー公ギヨーム1世殺害への報復としてエルランに殺害されたとも言われています。彼はヘントのシント＝ピーター修道院に埋葬されました。

後継者問題

アルヌール1世は、958年に息子のボードゥアン3世を共同統治者としましたが、ボードゥアン3世は962年に早世しました。そのため、アルヌール1世の死後、ボードゥアン3世の幼い息子であるアルヌール2世がフランドル伯位を継承することになりました。

子女

アルヌール1世は、最初の妻との間に少なくとも一女をもうけました。その娘はカンブレー伯イザークと結婚し、息子アルヌールがカンブレー伯を継承しました。934年には、ヴェルマンドワ伯エルベール2世の娘アデルと結婚し、以下の子女をもうけました。

イルデガルド（934年頃 - 990年） - ホラント伯ディルク2世と結婚。母は最初の妃かアデルか不明。
リュートガルド（935年 - 962年） - ハマラント伯ヴィヒマン4世と結婚
エグベール（937年 - 953年）
ボードゥアン3世（940年頃 - 962年） - フランドル伯（父と共治）、父に先立って死去。ヘルマン・ビルングの娘マティルデと結婚。
* エルフトリュード - ギネ伯シークフリードと結婚

アルヌール1世は、フランドル伯領の拡大と安定に貢献した重要な人物であり、彼の治世は中世フランドルの歴史において重要な転換点となりました。

もう一度検索