アルファロメオ・90

アルファロメオ90：苦境の中で生まれた継承モデル

アルファロメオ90は、1984年から1987年という短い期間、イタリアの自動車メーカー、アルファロメオによって生産された中型乗用車です。このモデルは、同社の歴史において特筆すべき経緯と特徴を持っています。

90の誕生背景には、アルファロメオが当時直面していた深刻な経営危機が大きく関わっています。主力モデルであったアルフェッタは1972年のデビューから既に12年が経過し、モデルとしての古さが否めなくなっていました。しかし、財政状況の悪化により、新型車の開発に必要な資金を確保することが困難な状況でした。

そのため、アルファロメオは思い切った決断を行います。それは、アルフェッタの優れた機構をほぼそのまま継承し、新たなボディを纏わせることで、新型車開発のコストを削減するという戦略です。こうして生まれたのがアルファロメオ90です。

デザイン面においては、兄弟車であるアルファロメオ75とは異なるアプローチがとられました。75のデザインはアルファロメオのデザインセンターが担当した一方、90のデザインは外部のデザインハウス、ベルトーネに委託されました。この委託によって、アルファロメオ90は75とは異なる個性的なスタイルを獲得することになります。

90の最大の特徴は、最高級モデルに搭載された2500cc V型6気筒エンジンです。これはアルフェッタには存在しなかったパワートレインであり、90のプレミアム感を高める重要な要素となりました。このエンジンの搭載は、従来のアルファロメオのフラッグシップモデルであったアルファ6が生産中止となったことに伴い、90がアルファロメオにおける最上級サルーンの役割を担うことになったためです。

しかし、アルファロメオ90の生産期間は長くありませんでした。1987年、フィアット、サーブとの共同開発によって生まれた新型車、アルファロメオ164が登場したことにより、90の生産は終了します。この164は、ティーポ4（クワトロ）プロジェクトとして知られる、複数メーカーによる共同開発プロジェクトの産物でした。

アルファロメオ90は、イタリア国内市場を主なターゲットとして販売されました。そのため、輸出台数は非常に少なく、日本市場への正規輸入は行われませんでした。

結果として、アルファロメオ90は、経営危機という厳しい状況下で生まれた、いわば苦肉の策ともいえるモデルでした。しかし、アルフェッタの優れた機構を受け継ぎながら、独自の個性も備えた、アルファロメオの歴史において重要な位置を占める1台と言えるでしょう。その希少性も相まって、現在ではコレクターズアイテムとしても注目を集めています。

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