アルフレッド・コルトー

アルフレッド・ドニ・コルトー（1877-1962）は、20世紀前半のフランス音楽界を牽引した、ピアニスト、指揮者、教育者、音楽学者です。スイスでフランスとスイスの血を引いて生まれ、パリ音楽院で学び、首席で卒業。初期には音楽院で必ずしも高い評価を得ていたわけではありませんでした。

演奏家としてのキャリアは多様でした。ピアニストとして出発後、ワーグナーに傾倒しバイロイト音楽祭の助手を経験。1902年頃からは指揮者としてもワーグナーの『神々の黄昏』フランス初演を成功させました。1905年にはジャック・ティボー、パブロ・カザルスと共にカザルス三重奏団を結成し、20年以上にわたり活躍しましたが、後に解散。第一次世界大戦後は、ピアニストとして欧米各地を精力的に巡演し、世界的な名声を確立しました。

ピアニストとしての主要なレパートリーは、ショパンやシューマンなどのロマン派、フランクからドビュッシーに至るフランス近代音楽でした。彼の演奏は、美しい音色と自由自在なテンポ・ルバートを特徴とし、作品の持つ深い詩情や感情を巧みに描き出しました。多くの録音は今なお彼の芸術を知る上で貴重な資料です。ショパンの前奏曲全曲は複数回録音され、シューマン作品は後進の模範となりました。

教育者としての功績も絶大です。パリ音楽院教授として改革を訴え、1919年にはオーギュスト・マンジョと共に理想の学舎、エコールノルマル音楽院を設立。生涯を通じて多くの才能を育てました。ディヌ・リパッティ、クララ・ハスキル、遠山慶子、エリック・ハイドシェックといった著名な門下生は、それぞれの個性を開花させており、これはコルトーが個性を尊重した指導を行った証と言えます。マスタークラスでの指導は「詩人の朗読」に例えられました。

コルトーはまた、著作や楽譜校訂でも重要な業績を遺しました。『ショパン』『フランス・ピアノ音楽』といった著書は日本語訳も出版されています。サラベール社刊行の「コルトー版」楽譜は詳細な解説が付され、多くの学習者に利用されました。『コルトーのピアノメトード』は、ピアノ演奏の技術的な基礎を体系的にまとめた教則本です。

第二次世界大戦中にヴィシー政権に関わったことは、戦後の活動に影を落としました。ナチス政権下での演奏を理由にフランス国内での演奏機会を制限されましたが、海外では活動を続け、1952年には日本でも演奏活動を行っています。

アルフレッド・コルトーは、その卓越した演奏、情熱的な教育、深い学識をもって、20世紀の音楽界に多大な貢献をした芸術家です。

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