アルベルトとニコラース・ルーベンスの肖像

『アルベルトとニコラース・ルーベンスの肖像』は、バロック美術の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが、油彩で板に描いた肖像画です。描かれているのは、ルーベンスと最初の妻イザベラ・ブラントとの間に生まれた2人の息子、アルベルト・ルーベンス(1614-1657年)とニコラース・ルーベンス(1618-1655年)です。

ルーベンスは、妻と娘のクララ・セレーナを相次いで亡くしており、この絵が制作された1626年から1627年頃には、この2人の息子だけがルーベンスの家族でした。作品は、1712年以前にリヒテンシュタイン公国ヨハン・アダム・アンドレアスによって購入され、現在はウィーンのリヒテンシュタイン美術館に所蔵されています。

アルベルトとニコラース、そして亡くなった娘クララ・セレーナは幼い頃、ルーベンスの絵画作品において、幼児イエスや天使のモデルを務めていたと考えられています。しかし、本作は2人の肖像画そのものを目的としており、王侯にふさわしい全身肖像画の形式で描かれています。描かれているアルベルトは13歳頃、ニコラースは9歳頃です。

ニコラースは、鑑賞者には目もくれず、リボンで繋がれたヒワと遊ぶことに夢中です。これは当時子供たちの間で人気のある遊びでした。一方、アルベルトは真剣な表情で、大人びて見えます。これは彼の優雅な服装と、リラックスしたポーズによるところが大きいでしょう。アルベルトは父親ルーベンスから、書物を読み、古代について学ぶことを奨励されており、13歳で最初のラテン語の詩を出版しています。彼が手にしている本は、彼の博識さを示唆しています。ルーベンスはアルベルトを非常に誇りに思っていたようで、友人への手紙の中で、彼を「私の分身」と呼んでいます。アルベルトは後に、当時最も尊敬された古代学者の1人となりました。兄弟の姿は、年齢だけでなく、性格の違いも表しているのかもしれません。

この作品には、隠された意味も込められている可能性があります。古代ローマの博物学者プリニウスは、古代ギリシアの画家に関する論考の中で、パルハシウスという画家が、2人の子供の肖像画において、年齢に応じた落ち着きと無邪気さを描いたと記しています。研究者のヘルトによると、ルーベンスは本作を描くにあたり、パルハシウスの絵画を意識していたと言われています。アルベルトが持つ本と、ニコラースが遊ぶ鳥は、それぞれの年齢の課題である勉学と遊びを象徴していると考えられます。

ルーベンスは、単に息子たちの姿を描いただけでなく、その内面や成長の過程、そして古典的な芸術への意識を、この肖像画に込めたのでしょう。この作品は、ルーベンスの家族への愛情と、卓越した画力が融合した傑作と言えるでしょう。

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