アルベルト・サンチェス・ペレス

アンベルト・サンチェス・ペレス：貧困から亡命へ、波乱の芸術生涯

アンベルト・サンチェス・ペレス（Alberto Sánchez Pérez）は、1895年にスペインのトレド近郊ラスコバチュエラスで生を受けた画家であり彫刻家です。彼の生涯は、貧困からの出発、芸術への情熱、そして戦争と亡命という激動の時代に彩られています。

幼少期は極めて厳しい環境にありました。パン職人の家に生まれたアンベルトは、わずか7歳という幼さで豚飼いとして働きに出ます。その後もパン配達人、鍛冶屋の見習い、靴職人、左官など、様々な肉体労働を転々としました。正規の教育を受ける機会に恵まれず、読み書きもできませんでした。

12歳頃、家族と共にマドリードに移り住んだことが転機となります。そこで出会った薬局に勤める友人の助けを得て、15歳になってようやく読み書きを身につけたのです。この経験を通じて、彼は知識を得ることの重要性を痛感したのかもしれません。マドリードで彼は社会主義青年に入党し、画家で漫画家としても活動していたフランシスコ・マテオスと出会います。また、自身が暮らしていたラバピエス地区を拠点とする南部社会主義サークルにも深く関わるなど、社会運動にも積極的に参加しました。

1917年から1919年にかけて兵役に服した後、アンベルトは次第に芸術の世界へと傾倒していきます。マドリードの主要な美術館、特にプラド美術館や国立考古学美術館に足繁く通い、古スペインに遡るイベリアの芸術に触れ、大きな影響を受けました。美術館での学びは、彼にとって重要な自己教育の機会となったのです。軍務を終えて数年後には、マドリードで開催されたシュールレアリストの展覧会に出品するなど、芸術家としての一歩を踏み出していました。

1927年には、芸術家のベンハミン・パレンシアと共に、スペイン独自の新しい芸術の確立を目指す「学校」を設立しました。これは当時の芸術の中心地であったパリの潮流に対抗し、スペインの土壌から生まれる芸術を創造するという強い意志の表れでした。マドリードのアトーチャ通りにあったホテル・ナシオナルのアーティストカフェにも常連として参加し、サルバドール・ダリやルイス・ブニュエルら多くの芸術家や文化人と交流を深めました。特に詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカとは親交が深く、彼が率いた移動劇団ラ・バラカのために複数の舞台美術を手がけるなど、その才能は絵画や彫刻にとどまりませんでした。

1936年にスペイン内戦が勃発すると、アンベルトは共和国政府を支持し、人民戦線の一員としてグアダラマ戦線に参加します。その後、共和国政府と共にバレンシアへ移動。戦時下の混乱の中でも芸術への情熱を失わず、バレンシア滞在中には演劇の舞台美術制作に携わり、ミゲル・デ・セルバンテス作『ヌマンシア包囲戦』などの舞台風景を手掛けました。

しかし、内戦中の1938年、彼の人生を大きく揺るがす悲劇が起こります。故郷マドリードのラバピエス地区にあった自身のアトリエが爆撃により完全に破壊され、それまでに制作された彼の作品のほとんどが失われてしまったのです。

同年、共和国政府は彼をソビエト連邦のモスクワへ派遣しました。これは、内戦を逃れてソ連に避難したスペインの子供たちのための絵画教師としての任務でしたが、事実上の亡命となりました。異国の地モスクワでの生活が始まります。彼は教師として子供たちに絵を教える傍ら、過去に失われた自身の彫刻作品のいくつかを再制作することにも取り組みました。

故国スペインへ戻ることは叶わず、アンベルト・サンチェス・ペレスは1962年、亡命先のモスクワでその生涯を終えました。彼の墓は、モスクワのヴヴェデンスコエ墓地に今も静かに残されています。貧困から身を起こし、芸術と社会運動に情熱を燃やし、戦争による悲劇と亡命という苦難を経験したその生涯は、20世紀前半のスペインの激動の歴史そのものを体現しているかのようです。

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