アルマンド・ベジャール

アルマンド＝グレザンド＝クレール＝エリザベート・ベジャール（1640年 - 1700年11月30日）は、17世紀フランスで最も名高い舞台女優の一人であり、偉大な劇作家モリエールの妻として知られています。

出自と幼少期

彼女は役者を多く輩出したベジャール家の一員ですが、その両親の詳細は不明であり、その出自は長年にわたり激しい議論の的となっています。幼少期は「ムヌー嬢」の芸名で子役として舞台に立ったと考えられています。「アルマンド」という名前が幼い頃に使われた形跡がなく、長い洗礼名は南仏巡業中にモリエールの庇護者であったコンティ公夫妻が名付け親となった可能性を示す説があります。

出自論争

アルマンドがマドレーヌ・ベジャールの娘か妹か、父親は誰かという問題は未解決です。同時代人、例えばモリエールの友人ボワローは彼女をマドレーヌの娘と見ており、問題は父親がモリエールかどうか、つまり近親相姦の疑いでした。19世紀に発見された結婚契約書には「故ジョゼフ・ベジャールならびにマリー＝エルベの娘」と記載されており、これがマドレーヌ娘説を覆す妹説の根拠となり、議論は二分されました。娘説支持者は、ボワロー証言、モリエールらの沈黙、マドレーヌからの多額の持参金や相続人指名を挙げます。妹説支持者は、結婚契約書や、1643年の母マリー＝エルベによる遺産放棄請願書に記された「未洗礼の女子」をアルマンドと解釈します。新たな資料が発見された後も、洗礼記録が見つからない限りこの論争に終止符は打たれない状況です。

結婚生活とキャリア

1662年2月にモリエールと結婚。当初は円満でしたが、次第に関係は冷え込みます。これは1663年の『ヴェルサイユ即興劇』のセリフや、モリエール作品における夫婦像の変化にも示唆されています。伝記作家グリマレもその機微に触れています。成功と疲弊の渦中にあったモリエールにとって、家庭は安らぎではなく負担となった側面もあったと伝えられ、夫婦間の冷え込みが健康にも影響を与えたとされます。

夫婦の間には3人の子が生まれましたが、長男、三男は夭折。成人したのは長女マリーのみでした。マリーは母の再婚を喜ばず、夫妻に疎まれ僧院に預けられた結果、結婚も遅れ、子を残さずモリエールの血筋は途絶えました。

女優としては1664年頃から才能が開花し、様々な役をこなして劇団の中心となりました。1673年、モリエールが舞台上で死去すると、アルマンドは国王に請願して夫の埋葬許可を得ました。

モリエール没後

モリエールの死後、劇団はパレ・ロワイヤルの使用権を失いますが、アルマンドはラ・グランジュと協力し、マレー劇場の俳優を吸収してゲネゴー劇場に移ります。1677年、俳優ゲラン・デストリシェと再婚し、息子ニコラをもうけました。1680年、コメディ・フランセーズが創設されると、アルマンドはその最初の正座員の一人となります。1694年に引退し、年金を得てムードンの家で夫と余生を送りました。

晩年と死去

1700年11月30日に死去し、パリ市内の墓地に葬られました。

エピソード

幼い頃の舞台デビューや、個性的な容姿と社交的な性格が伝えられています。また、モリエールが可愛がった俳優ミシェル・バロンに嫉妬し平手打ちした確執、そして美青年となったバロンにアルマンドが言い寄ったという根拠のない中傷など、バロンとの間の複雑な関係も語られています。モリエール死後も、彼が保証人となっていたバロンの借金督促がアルマンドに来るなど、二人の関係は続きました。

もう一度検索