アレクサンドラ病院事件

アレクサンドラ病院事件

アレクサンドラ病院事件は、1942年2月14日、シンガポール攻略戦中に発生した、日本軍による病院襲撃事件です。シンガポールのアレクサンドラ病院で、日本軍が医療関係者や負傷者を含む200人以上を殺害したとされています。この事件は、戦争における非人道的な行為として、今日まで語り継がれています。

背景

シンガポール市街の西に位置するアレクサンドラ病院は、当時イギリスが海外に保有していた最大規模の軍用病院でした。1942年2月のシンガポールの戦いでは、日本軍第25軍の第18師団が、病院のあるシンガポール島西側を担当していました。2月12日、連合軍の前線が病院の後方まで後退し、病院は戦場の中間地帯となりました。病院のクレイヴン大佐は、マラヤ軍司令部からこの状況を知らされ、病院の各所に赤十字の標章を掲げ、日本軍の侵入に備えました。

事件発生

2月14日、病院のバルコニーにいたインド兵が日本兵に発砲したことをきっかけに、日本軍が病院に侵入しました。一部では、逃げてきたインド兵を日本軍が追跡していたとする説もあります。J.W.D.ブル少佐は、病院最上階で赤十字旗を振っていましたが、銃弾が旗を貫通し、背後の壁に当たりました。ブル少佐は、階下で日本の将校が銃撃を指示するのを目撃しました。日本兵は病院スタッフや患者を無差別に銃撃し、白旗を掲げて降伏を試みたウェストン中尉も射殺されました。

手術室では、手術中の患者や執刀医が銃剣で刺殺、あるいは射殺されました。麻酔医は銃剣で刺されながらも生き延び、後にこの時の体験を語っています。日本軍は、病院内の医療班員や歩ける患者を建物外に追い出しました。軍医のR.M.アラダイス大尉は日本語が堪能であったため、日本軍将校に事態の収拾を求めたものの、200人以上の負傷者や医療班員とともに連行され、狭い部屋に監禁されました。その結果、5人が窒息死し、残った人々も翌日、銃剣や機関銃で殺害されました。アラダイス大尉もこの時命を落としました。生存者はわずか5名でした。この事件で、約200人の負傷者、20人の軍医将校、60人の看護兵が命を落としたとされています。

事件後

2月16日、日本軍将校が病院を訪れ、事件について謝罪しました。3ヶ月後、日本軍の捕虜となっていたワイルド大佐の指揮下で、遺体が収集され埋葬されました。

戦犯調査

戦後、事件の戦犯調査にあたったワイルド大佐は、1945年10月28日に、マニラに拘留されていた山下奉文元第25軍司令官を尋問しました。山下は事件について全く知らなかったと述べ、「このような無分別で暴虐な事件を起こすのは大馬鹿者だ」と述べました。ワイルド大佐が、事件後に日本軍将校が謝罪していることを伝えると、山下は当時の第18師団師団長である牟田口廉也中将の名前を挙げ、牟田口に責任があると述べました。そのため、戦後の記録では、謝罪に訪れた将校を牟田口や山下とする説も存在しますが、確証はありません。牟田口は1945年12月に逮捕されました。ワイルド大佐は、牟田口の尋問を予定していましたが、1946年、東京裁判からの帰路に香港で事故死しました。1946年10月、牟田口はシンガポールへ移送され、取り調べを受けましたが、アレクサンドラ病院事件については問題視されず、起訴には至りませんでした。

事件後、元軍医のナトールが1984年に医学誌に手紙を掲載したことで、事件は世界的に報道されました。

この事件は、戦争の悲惨さと非人道性を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

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