アレクト自走砲

アレクト自走砲：終戦により日の目を見なかったイギリス軍の試作自走砲

第二次世界大戦中、イギリス軍は数々の革新的な兵器を開発しました。その中には、残念ながら実戦投入されることなく終わったものも数多く存在します。アレクト自走砲もその一つです。本稿では、この特異な自走砲の開発から戦後の転用までを詳細に解説します。

開発の経緯と技術的特徴

アレクト自走砲の開発計画は、1942年に95mm榴弾砲を搭載した自走砲の必要性から始まりました。開発の中心となったのは、3.75インチ（95mm）榴弾砲の搭載です。試作車両は、既存の軽戦車であるマークVIII軽戦車シャーシを流用。この軽戦車は、中央転輪を横方向に動かすことで旋回する独特のスキッドステアリング方式を採用していました。アレクト自走砲もこの方式を踏襲し、車体後部に砲塔を配置したオープントップ構造となっています。

1944年後半になってようやく本格的な試験が実施されましたが、その結果、様々な問題点が露呈しました。これらの問題を解決する前に戦争が終結したため、アレクト自走砲の開発計画は中止となってしまいます。当初、陸軍省は2200輌の生産を計画していましたが、実際に生産されたのはごく少数にとどまり、そのほとんどが工兵用のブルドーザーに改造されました。この改造は、アレクト自走砲の操縦席が車体中央の高い位置に配置されていたという、独特の設計が幸いした面もあります。

アレクトの派生型

アレクト自走砲にはいくつかの派生型が存在しました。主な派生型は以下の通りです。

マークI: 95mm砲を搭載した基本型。
マークII: 6ポンド砲を搭載した型。
マークIII: 25ポンド砲を搭載した型。試作段階で終わったようです。
マークIV: 32ポンド砲を搭載した型。
* アレクト ドーザー: 戦後、砲を撤去し、ドーザーブレードを装備した工兵車両。これは、前述した車体中央の高い位置にある操縦席がブルドーザーへの改造に適していたためです。

アレクト自走砲のその後と評価

アレクト自走砲は、その特異な構造と開発中止という経緯から、軍事史における存在感は決して大きくありません。しかし、スキッドステアリング方式を採用した点や、戦後に工兵車両として転用された点などは、当時の技術水準や戦況を反映する貴重な資料となっています。また、ゲーム『War Thunder』でイベント車両として登場するなど、今日でもその名を知られる機会があります。

アレクト自走砲は、戦争終結という不運に見舞われた兵器の一つと言えます。しかし、その開発の歴史と、戦後の転用は、技術開発における試行錯誤、そして状況変化への対応という側面を私たちに教えてくれる貴重な事例と言えるでしょう。もし戦争が長期化していたら、アレクト自走砲はどのような活躍をしたのでしょうか。歴史に「もし」はないとはいえ、想像力を掻き立てられる興味深い存在です。

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