アレグロ・アパショナート (サン＝サーンス)

カミーユ・サン＝サーンス（Camille Saint-Saëns, 1835-1921）の作品には、「アレグロ・アパッショナート（Allegro appassionato）」と題されたものが二つ存在します。一つはチェロとピアノまたは管弦楽のために書かれた作品43（作品番号43）で、もう一つはピアノ独奏またはピアノと管弦楽のために書かれた作品70（作品番号70）です。

これら二つの作品は、題名こそ同じですが、楽器編成が異なるだけでなく、音楽的な内容にも直接的な関連はありません。それぞれが独立した作品として、作曲家の情熱的で技巧的な側面を異なる形で表現しています。

作品43：チェロとピアノまたは管弦楽のためのアレグロ・アパッショナート

この作品の正確な作曲時期は明らかになっていませんが、1873年にサン＝サーンスの友人であった著名なチェリスト、ジュール・ベルナール・ラセールによって初演され、彼に献呈されました。管弦楽伴奏版は、その数年後の1876年に完成しています。

楽曲はロ短調、2/4拍子で書かれており、簡潔なソナタ形式をとっています。演奏時間は3分から4分程度と短い単一楽章の作品です。

冒頭はわずか2小節の短い序奏で始まります。チェロの豊かな音域を考慮し、楽器の低い響きを生かす形で、シンコペーションを伴う下降音階が印象的に奏されます。続く第一主題は、4分音符と16分音符を組み合わせた特定の音形を基にしており、ここでもリズムの推進力となるシンコペーションが効果的に用いられています。対照的に、チェロの重音奏法から導入される第二主題は、その音楽的な性格が多様に変化していく点が特徴です。

作品全体の規模は小さいものの、チェロという楽器の持つ技巧的な可能性や豊かな表現力が存分に引き出されています。短い時間の中に、サン＝サーンスならではの作曲技法や楽器の扱い方を見ることができる作品と言えるでしょう。

作品70：ピアノ独奏またはピアノと管弦楽のためのアレグロ・アパッショナート

ピアノ独奏版は、1884年にパリ音楽院の試験曲として作曲され、同年中に出版されました。ピアノ協奏曲版の作曲時期や成立の経緯については、詳しいことは分かっていません。この協奏曲版の楽譜は、それをさらに2台ピアノ用に編曲したものと共に、1905年に出版されています。現在、演奏機会が多いのは主にピアノ独奏版です。

この作品は嬰ハ短調、6/8拍子で書かれており、ソナタ形式の要素を含んだ複合三部形式をとっています。演奏時間は約5分半です。

楽曲は特徴的な三音（Fis-Gis-His）による動機で幕を開け、主部ではこの冒頭動機が徹底的に展開され、作品全体を統一する重要な要素となっています。中間部では、主部の主題が展開される間に、二つの対照的な抒情的なエピソードが挟み込まれ、音楽に変化と奥行きを与えています。

技術的には、演奏者には複雑なリズムの正確な処理能力、華麗なアルペジオの技巧、そして異なる楽想を明確に弾き分ける表現力が求められます。パリ音楽院の試験曲として書かれたことからもわかるように、高度な演奏技術が要求される作品です。

これら二つの「アレグロ・アパッショナート」は、同名の作品でありながら、それぞれの楽器の特性を生かし、異なる音楽語法で作曲されたサン＝サーンスの重要な小品群です。作品43がチェロの魅力を凝縮したかのような名品であるのに対し、作品70はピアノの技巧と表現力を駆使した情熱的な作品として、今日でも演奏され続けています。

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