アレッサンドロ・カーサグランデ国際ピアノコンクール

イタリアの中央部、ウンブリア州テルニ市を舞台に開催される国際的なピアノコンクールです。正式名称はイタリア語で Concorso Pianistico Internazionale "Alessandro Casagrande" といいます。

設立と歴史

このコンクールは、将来を嘱望されながらも1964年に30代で惜しまれつつ世を去ったイタリアのピアニスト、アレッサンドロ・カーサグランデを追悼する目的で設立されました。彼の妻であるアドリアーナ・モレッリ氏によって、1966年に第1回が開催されました。当初は毎年開催されていましたが、1980年からは隔年での開催形式へと移行しています。

1975年には国際音楽コンクール世界連盟（WFIMC）に加盟し、国際的な認知度を高めました。特に連盟に加盟していた時期には、多くの日本人ピアニストが挑戦するコンクールとしても知られていました。その後、2018年までに連盟を脱退しています。

長年にわたり、ダリオ・デ・ローザ氏が審査委員長を務め、その音楽的な見識と手腕がコンクールの方向性を決定づける上で大きな影響力を持っていました。デ・ローザ氏は2013年に逝去し、コンクールは一つの転換期を迎えます。設立者であるアドリアーナ・モレッリ氏も2019年に亡くなった後、コンクールはアゴスティーノ・グイード・ファンデーション（AAF）からの助成を受けて運営されています。

コンクールの特徴と変遷

アレッサンドロ・カーサグランデ国際ピアノコンクールは、その独自の運営方針と特に課題曲量の多さで注目されてきました。

課題曲のボリューム

かつては、その予選から本選にかけて要求される課題曲の総量が非常に多いことで知られていました。例えば2010年大会の公式要項によれば、1次予選15分、2次予選45分、3次予選70分（ただし抽選により20分削除される可能性あり）、そして本選は室内楽2～3曲に加えて協奏曲1曲を演奏する必要がありました。これは合計すると2時間半から3時間近い演奏時間となり、参加者には膨大な準備が求められました。

このような多量の課題曲設定は、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールのような世界最高峰のコンクールでは見られる傾向ですが、本コンクールのような比較的小規模なコンクールとしては非常に珍しい特徴でした。1990年代の日本国際音楽コンクールと比較しても、要求される曲数は上回っていた時期があるほどです。

デ・ローザ氏の逝去後、コンクールは刷新を試みます。特に2014年大会では、課題曲量がさらに増加し、1次予選30分、2次予選45分、3次予選75分、本選は室内楽1曲と協奏曲1曲が課されました。これはイタリア国内で開催される国際ピアノコンクールの中でも、最も課題曲量の多い大会として記憶されています。

現在の形式と求める人材

現在のコンクールは、かつてのような極端な課題曲量から、より一般的な規模へと見直されています。しかし、その代わりにDVDによる動画予選が新たに導入されるなど、選考プロセスには変化が見られます。

本コンクールは常に、最高位に立つピアニストに対して、強い個性や卓越した才能を求めてきました。かつて本選で使用されるピアノがスタインウェイであった時期（2014年まで）には、独特の強い音楽性を持つピアニストが選ばれる傾向がありました。しかし、現在の主要スポンサーがイタリアのピアノメーカーであるファツィオリとなり、使用されるピアノが変更されたことも影響し、近年ではより普遍的な音楽性を持つ、いわゆる「癖」の少ないタイプのピアニストが優勝することが増えているようです。

また、参加者の応募人数が比較的少なくても、コンクールが中止されることなく確実に開催されてきた点も、このコンクールの継続性を物語る特徴の一つと言えます。

著名な優勝者

本コンクールからは、国際的に活躍する多くのピアニストが輩出されています。特に有名な優勝者としては、1978年大会で第1位を獲得したクロアチア出身の世界的ピアニスト、イーヴォ・ポゴレリチが挙げられます。

直近では2022年に第1位が選出されており、次回の開催は2025年を予定しています。

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