アレヒン・ディフェンス

アレヒン・ディフェンスとは

アレヒン・ディフェンス（Alekhine's Defence）は、チェスにおけるオープニングの一つです。その名は、第4代および第6代のチェス世界チャンピオンであるアレクサンドル・アレヒン（アレキン、アリョーヒンとも呼ばれます）が深く研究し、実戦で用いたことに由来します。

このオープニングは、白の初手1. e4に対して、黒がナイトを動かす1...Nf6で開始されます。通常の序盤理論では、序盤で同じ駒を複数回動かすことは「手損」と見なされがちですが、アレヒン・ディフェンスでは意図的に黒のナイトを動かすことで、白のセンターポーンを前方へ誘い出す戦略を採用します。白がこれらのポーンを押し進めることで生じるスペース上の有利を黒は許容しますが、その代わりに伸びきったポーンチェーンを攻撃目標とし、ゲーム後半での弱点に転換させることを目指します。

アレヒン自身が1921年のブダペストで開催された国際大会でこの戦法を効果的に使用し、成功を収めたことで、その有効性が広く認識されました。しかし、白の多様な対応策と黒側の繊細な駒の連携が必要となるため、変化が非常に複雑になりやすく、主に中級者以上のプレイヤー向けとされる難易度の高いオープニングです。

主要な変化

アレヒン・ディフェンスにおける白の代表的な応手は多岐にわたりますが、中でも重要なものをいくつか紹介します。

フォー・ポーンズ・アタック (Four Pawns Attack)

これは、2. e5 Nd5 3. c4 Nb6 4. d4 d6 5. f4 と進む手順です。白がキングサイドのfポーンを含む4つのポーンをセンターおよびセミ・センターに展開し、強力な中央の支配を確立しようとする積極的なシステムです。この変化では、黒は白の広大なスペースに対抗するため、ポーン構造の弱体化を図る必要があります。

黒の5手目には、5...de（ポーン交換）か5...g6（フィアンケット準備）という二つの主要な選択肢があります。

5...de と進んだ場合、白は6. feとポーンを取り返し、その後Nc3, Be3, Nf3などで駒を展開します。黒はNc6, Bf5, e6, Be7, 0-0などで対抗します。このラインでは、白が不用意にビショップを8手目(8. Bd3?)に展開すると、黒の戦術的な反撃(8...Bxd3 9. Qxd3 Nxe5)によってポーンを失う可能性があります。また、黒のナイトがb4に進んだ場合（9...Nb4）、白はRc1やa3などで対応しますが、黒はナイトを再度移動させる必要があります。
5...g6 と進んだ場合、白は通常Nc3で応じ、黒はde, Bg7, 0-0などでキングサイドを固めます。白はNf3, Be3などで展開し、中央での戦闘が予想されます。この変化は、例えば白が6. edとポーン交換を選んだ後のコボ対シュミット戦のように、互角の局面になりやすいとされています。

エクスチェンジ・ヴァリエーション (Exchange Variation)

これは、フォー・ポーンズ・アタックと同様に 1. e4 Nf6 2. e5 Nd5 3. c4 Nb6 4. d4 d6 と進んだ後、白が5. edとdファイルのポーンを交換する手順です。この交換により局面はやや簡略化され、白はセンターに強固なポーン構造を築くことを目指します。黒は5...edの後、Nc6, Be7, 0-0などで自然な駒展開を進め、白の中央ポーンに対するプレッシャーを維持します。

その他の変化

白は、序盤で他にも様々な応手を選択できます。

2. Nc3: 白が2手目でナイトをセンターに展開する手は、黒の応答によって他のオープニングに移行することが多いです。例えば、2...e5に対してはウィーン布局、2...d5に対してはセンター・カウンター・ディフェンス、2...d6に対してはピルツ・ディフェンスとなります。
3. d4: 2. e5 Nd5の後に3. d4と指す手もあります。黒が3...d6と応じた後、白が4. c4と進めば、手順が前後してフォー・ポーンズ・アタックに合流します。あるいは4. Nf3と進むと、黒はBg4などで積極的に白の駒展開を妨害し、独自の戦いが展開されます。
3. Nc3: 2. e5 Nd5の後に3. Nc3と指した場合、黒は通常3...Nxc3として白のセンターポーン構造を崩すことを目指します。その後dc d6 Nf3 Nc6と進み、複雑ながらも互角の局面となる変化が知られています。
4. c5: 3. c4 Nb6の後に白が4. c5とポーンをさらに進める手も有力です。ワシュコフ対スパスキー戦で指されたこの手は、黒のナイトをさらに後退させようとする攻撃的な一手ですが、黒は正確な応手によって打開を図ることが可能です。
* 5. Nf3: 4. d4 d6の後に白が5. Nf3と指す手も考えられます。黒は5...Bg4などで素早く白のキングサイドに圧力をかけることができます。この変化も、正確な差し合いが続けば互角の局面に至ることが多いです。

アレヒン・ディフェンスは、白のセンターポーンを積極的に攻撃対象とするユニークな戦略を持ち、多くの変化に富んだ戦いを生み出すオープニングです。その複雑さゆえに、深い理解と正確な手順の知識が求められますが、使いこなせれば相手を定跡から引き離し、主導権を握ることも可能です。

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