アンダルシアの犬

アンダルシアの犬

『アンダルシアの犬』（フランス語: Un Chien Andalou）は、スペイン出身の映画監督ルイス・ブニュエルと画家サルバドール・ダリが共同で脚本を執筆し、ブニュエルが監督を務めたフランスの短編映画です。1928年に製作され、翌1929年に公開されました。

シュルレアリスム映画の金字塔

わずか17分程度のこの作品は、シュルレアリスムを代表する映画の一つとして、今なおその影響力を保ち続けています。ブニュエルが抱いていたアナキズム的な思想や、既存の映画文法に対する批判精神が色濃く反映されており、「映画の機能を否定した映画」とも評される挑戦的な内容となっています。物語は、ある男性と女性の間で繰り広げられる情念を思わせる断片的な場面が含まれるものの、始まりから終わりまで一貫した明確なストーリーは存在しません。代わりに、互いに無関係に見える、しかし観る者に強烈な印象を与える不可思議なイメージ群が次々と現れます。

衝撃と謎に満ちたイメージ

映画は、冒頭に映し出される、剃刀で女性の眼球が切断されるかのようなショッキングな場面から始まります。その後も、路上に転がる切断された右腕を杖でつつく淑女、手のひらに群がるおびただしい数の蟻など、論理的な繋がりを排した、まるで夢の中のような、あるいは悪夢のようなイメージが断片的に描かれていきます。これらは、ブニュエルとダリがそれぞれの夢や無意識の世界から引き出したイメージを気ままに持ち寄り、それらを並列に配置することで生み出されました。観客は、これらの断片的なイメージを自身の感性で受け止め、そこから何かしらの感情や意味を見出すことを促されます。作品自体は、観客に特定のメッセージや解釈を強要することはなく、見る者それぞれの内面を映し出す鏡のような性質を持っています。

予想外の喝采

この極めて実験的で挑発的な内容のため、ブニュエルは初上映時に観客から激しい抗議を受けることを予想していました。彼は実際に、観客からの猛反発に備え、身を守るためにポケットに石を忍ばせていたといいます。しかし、実際に上映が始まると、会場に集まっていたパブロ・ピカソ、アンドレ・ブルトン、ジャン・コクトー、マックス・エルンスト、ル・コルビュジエ、ルネ・マグリット、ポール・エリュアール、ルイ・アラゴン、マン・レイ、トリスタン・ツァラといった名だたる芸術家や批評家たちは、この作品を熱狂的な喝采をもって迎えました。この成功により、ブニュエルは当時大きな影響力を持っていたシュルレアリスト・グループへの参加が認められ、その後のキャリアに大きな弾みとなりました。

伝説となった冒頭シーン

特に作品の象徴として語り継がれているのが、冒頭の眼球切断の場面です。その生々しさから、実際に人間の目を使ったのではないか、あるいは豚や馬の目、精巧な作り物ではないかなど、公開当時から様々な憶測や都市伝説が飛び交いました。しかし、後にブニュエル自身が、このシーンには死んだ子牛の目が使用されたと明かしています。

スタッフとキャスト

監督・製作: ルイス・ブニュエル
脚本: ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ
主要キャスト:
若い男 - ピエール・バチェフ
若い娘 - シモーヌ・マルイユ
聖母マリア会修道士 - サルバドール・ダリ
* 剃刀を持った男 - ルイス・ブニュエル

『アンダルシアの犬』は、その短さにもかかわらず、映画史におけるシュルレアリスム運動の重要性を示す作品であり、今なお多くの人々に衝撃とインスピレーションを与え続けています。

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