アンダンテと変奏曲 (シューマン)

アンダンテと変奏曲（アンダンテとへんそうきょく） 変ロ長調 作品46

ロベルト・シューマンによって1843年に作曲された「アンダンテと変奏曲 変ロ長調 作品46」は、彼の室内楽およびピアノ作品における興味深い位置を占める楽曲です。この作品は、当初は特殊な編成の室内楽曲として構想されましたが、後に今日広く知られる2台のピアノのための版へと改訂されました。

概要と作曲経緯

この楽曲は、作曲当初は2台のピアノ、2本のチェロ、そしてホルンという独特な編成の室内楽曲として生み出されました。完成後、非公式な場で試奏が行われ、その際の評価を基に、シューマンはより一般的な編成である2台のピアノのための楽曲へと改訂することを決定しました。この改訂作業において、当初の室内楽版に含まれていた冒頭の序奏部分、中間部に位置する間奏部分、そして第10変奏が削除されました。これらのカットされた部分を除けば、両版の基本的な音楽の進行は共通しています。

室内楽版の特徴として、チェロとホルンが含まれているにも関わらず、楽曲の多くの場面でピアノが主導的な役割を担っている点が挙げられます。このピアノ中心の構造が、後の2台ピアノ版への改訂に繋がった一因と考えられています。作品番号である作品46は、厳密にはこの改訂された2台ピアノ版に対して付与されたものです。シューマンにとって、「アンダンテと変奏曲」の2台ピアノ版は、この編成のために書かれた唯一の作品としても価値を持ちます。

楽譜自体は、改訂版である2台ピアノ版、そして原典である室内楽版の両方が古くから出版されており、それぞれの版で演奏の機会が持たれています。初演に関して、2台ピアノ版は作曲と同年の1843年に公の場で演奏されました。一方、室内楽版は同年に行われた非公式な試奏の記録はありますが、公式な初演がいつ行われたかについては明確な資料がありません。

楽曲構成

この楽曲は、切れ目なく演奏される一連の部分によって構成されています。中心となるのは主題とその変奏であり、特に2台ピアノ版では、ほとんどの箇所で2台のピアノが互いの旋律を模倣したり応答したりしながら進行します。

原典である室内楽版にのみ存在する部分は、序奏、間奏部、および第10変奏です。それ以外の部分は、両版で共通の音楽が展開されます。

以下に、各部分の構成と特徴を示します。

序奏（ソステヌート）
室内楽版のみに存在する短い導入部です。静かに音が重ねられていき、最後はホルンが長い音を響かせながら主題へと繋がります。

主題（アンダンテ・エスポレッシーヴォ）
「ゆっくりと、表情豊かに」との指示がつけられた、歌謡的な主題です。2台のピアノによって順に提示されます。

第1変奏
主題の一部を細かく分断し、より動きのある楽想に変容させます。主題の断片が軽やかに展開されます。

第2変奏（ウン・ポコ・ピウ・アニマート）
「少し速く、より活き活きと」との指示通り、細やかなアルペジオ（分散和音）を主体とする、軽快で華やかな響きの変奏です。

第3変奏
変奏というよりは、主題とは異なる新しいロマンチックな旋律が登場し、歌い上げられます。

第4変奏（ピウ・アニマート）
「より活き活きと」の指示が示唆するように、力強く推進力のあるリズムと旋律が特徴的な変奏です。

第5変奏（ピウ・レント）
テンポが落ち、「より遅く、荘重に」といった雰囲気を伴います。ファンファーレのような音型が繰り返され、特に室内楽版ではホルンがこのファンファーレを担当し、印象的な効果を生み出します。

間奏部（ウン・ポコ・ピウ・レント）
室内楽版にのみ存在する中間部です。「少し遅く」テンポが緩められます。シューマンの歌曲集「女の愛と生涯」の中で用いられている旋律が現れ、チェロとホルンによるコラール風の響きによって繰り返されます。全曲を通じて、ピアノが脇役に回る数少ない場面の一つです。

第6変奏（ピウ・レント）
再び最初の主題と同じ「遅い」テンポに戻り、主題が回想されるかのように提示されます。

第7変奏（アニマート）
「活き活きと」と指示され、輝きを放つような、技巧的なピアノ書法が特徴的な変奏です。

第8変奏
反復されるリズミックな音型が主体となります。室内楽版では、ホルンの響きと他の楽器との対比が効果的に用いられながら楽曲が進行します。

第9変奏
シンコペーションを多用し、リズミカルで舞曲のような雰囲気を持ちます。変奏の終盤では、一度音楽が静まり、次の部分への橋渡しとなります。

第10変奏（ドッピオ・モヴィメント）
室内楽版にのみ存在します。「2倍の速さで」との指示通り、非常に速く激しいリズムが特徴的な変奏です。終盤で徐々に音楽的な勢いが収まり、終曲へと自然に繋がります。

終曲（テンポ・プリモ）
再び最初のテンポに戻り、冒頭の主題が再び現れます。主題の回想の後、静かに、そして穏やかに楽曲が閉じられます。なお、この終結部については、作曲者自身によって異なる2つの版が残されています。

演奏と録音

編成が特殊であるにも関わらず、室内楽版の「アンダンテと変奏曲」は、シューマンの作品に焦点を当てた演奏会などで取り上げられることがあります。録音としては、マルタ・アルゲリッチをはじめとする著名な演奏家たちが、シューマンの室内楽曲を演奏したライブ録音CDが有名で、この中に室内楽版が収められています（ホルン奏者はマリー・ルイズ・ノイネッカー）。2台ピアノ版は、ピアノデュオの重要なレパートリーとして頻繁に演奏・録音されています。

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