アンチポルノ

『アンチポルノ』は、カリスマ的な人気を誇る女性小説家の日々を、奇妙な現実と幻想の境界線が曖昧な筆致で描いた2017年の日本映画です。鬼才・園子温が監督・脚本を手掛け、当時女優への転身を遂げたばかりの冨手麻妙が主役を務めました。
本作は、日活が創立45周年を記念して企画した「ロマンポルノ・リブートプロジェクト」の一作品として制作され、その挑戦的なタイトルと内容が公開当時大きな話題を呼びました。

制作背景とテーマ

このリブート企画では、70分程度の上映時間、約10分おきに挿入される濡れ場、わずか1週間の撮影期間、定められた製作費、そしてオリジナルの物語であること、という五つの厳しいマニフェストが設けられていました。園子温監督は当初、ロマンポルノ自体に特別な思い入れがなく、懐古的な作品作りを好まないため一度はオファーを断ったといいます。しかし、「アンチポルノ（ポルノの否定）ならば撮れる」と発言したところ、それが受け入れられ制作が実現しました。タイトルの通り、既存のポルノ映画の枠に収まらない、独特の世界観が展開されます。

キャストと挑戦

主演の冨手麻妙は、元AKB48の研究生という異色の経歴を持ちます。グループ卒業後に女優として活動を開始し、熱狂的な園子温監督のファンであることを公言していました。これまでの監督作品にも出演していましたが、本作で初めて映画主演を飾り、女優としての新境地を開くと同時に、キャリア初のヌードシーンにも挑戦しました。
本作では、主演の冨手麻妙に加え、筒井真理子、下村愛、吉牟田眞奈といった出演者がヌードを披露しています。これは、かつてヘア表現が解禁される以前に制作が中断されていた日活ロマンポルノの長い歴史において、史上初のヘアヌード解禁作品となりました。この点でも、リブート企画の意欲的な姿勢が示されています。

物語と登場人物

物語の舞台となるのは、原色に彩られた奇抜な部屋。主人公である人気小説家の京子（冨手麻妙）は、「気が触れた女」と自称するほどエキセントリックな言動を繰り返します。彼女の日常は、厳格にスケジュールを管理する従順な女性マネージャー・典子（筒井真理子）との奇妙な主従関係を中心に展開されます。また、すでに亡くなった妹・妙子（福田愛美）が幻として現れたり、傲慢な女性編集長（小谷早弥花）や独特な雰囲気の女性カメラマン（不二子）など、個性的な人物が京子の世界に関わってきます。さらに、奇妙な両親（貴山侑哉、吉牟田眞奈）や突然現れる青年（長谷川大）、そして京子の演技にダメ出しをする映画監督（坂東工）など、登場人物たちはどこか歪んでおり、京子の現実が徐々に侵食されていく様子が描かれます。撮影スタッフもすべて女性で構成されているなど、細部まで監督の意図が感じられます。

評価

本作を鑑賞した、かつて日活ロマンポルノを代表する女優の一人であった田中真理は、「園監督の世界観がたっぷり描かれていて、質の高い舞台劇をみているようでした。冨手さんも筒井さんも難しい役をしっかり演じられていて、楽しんでみせていただきました。まさに、今！2017年の作品だと感じられました。」と評しており、現代的な感性と表現力が高く評価されたことが伺えます。

『アンチポルノ』は、単なる性描写に留まらず、芸術的な表現と人間の内面に深く切り込んだ園子温監督らしい作品です。リブート企画のマニフェストを逆手に取りながら、ポルノの枠を超えた、見る者に強烈な印象を残す異色の人間ドラマとして完成しています。

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