アンドレイ・オステルマン

アンドレイ・イヴァノヴィチ・オステルマン伯爵：ロシア帝国を揺るがした外交官の生涯

アンドレイ・イヴァノヴィチ・オステルマン伯爵は、1686年、神聖ローマ帝国に生まれ、後にロシア帝国でその名を歴史に刻むことになる傑物です。中産階級の家庭に生まれた彼は、ハインリヒ・ヨハン・フリードリヒ・オステルマンという名前で、若くしてロシアで運命の転機を迎えました。

オステルマンは、ロシア海軍中将コルネリウス・クルイスの秘書としてロシアに渡りました。クルイスはピョートル大帝から有能な人材を探し出すよう命じられており、オステルマンはその鋭い才覚でクルイスの目に留まり、政府への道を歩み始めることになります。ヨーロッパ諸国の言語に精通していたオステルマンは、すぐにその能力を発揮します。副宰相ピョートル・シャフィーロフの下で活躍し、大北方戦争中のプルト条約交渉では、卓越した外交手腕で重要な役割を果たしました。

1718年には、オーランド諸島でのスウェーデンとの和平交渉にも参加。スウェーデンの疲弊と、スウェーデン全権使節の越権行為を見抜いたオステルマンは、ピョートル大帝に更なる圧力をかけるよう進言し、その結果、ニスタット条約の締結に貢献しました。この功績により、男爵に叙せられます。

その後、オステルマンは外務次官に就任。ペルシアとの通商条約締結という危険な任務にも従事しました。ピョートル大帝は、国内問題についてもオステルマンの助言を求め、彼の提言に基づき、「官等表」の導入や外交官庁の近代化など、様々な行政改革が行われました。

エカチェリーナ1世、ピョートル2世の治世においても、オステルマンの影響力は増大しました。エカチェリーナ1世の治世下では、外交問題をほぼ独占的に担当するだけでなく、商務長官、郵政長官も兼任。ピョートル2世の家庭教師にも任命されるなど、その地位は盤石なものとなりました。ピョートル2世の死後、大貴族らが制限立憲君主制を企てましたが、オステルマンはこれに協力せず、アンナ・イヴァノヴナ女帝の専制君主制確立に貢献、その信頼を得ます。

アンナ・イヴァノヴナ女帝の治世（1730年-1740年）は、オステルマンの改革の時代でした。通商の奨励、減税、産業振興、教育の充実、司法制度の整備など、数々の政策が実行され、ロシアの国際的信用も向上しました。ポーランド継承戦争、露土戦争での成功も、彼の優れた外交交渉術によるものでした。

アンナ・レオポルドヴナの摂政時代には、オステルマンの権力は頂点に達します。フランス大使ラ・シェタルディ侯爵は、「彼が全ロシアのツァーリと言っても過言ではない」と記すほどでした。しかし、その権勢は長くは続きませんでした。彼のオーストリア重視の外交政策は、フランスの反感を買い、フランスはロシアの敵国であるスウェーデンを利用してオステルマン打倒を企てます。ハット党戦争が勃発し、オステルマンは失脚します。

1741年12月6日、エリザヴェータ・ペトロヴナによるクーデターが起こり、オステルマンは逮捕されます。様々な罪状で告発され、死刑を宣告されますが、直前でシベリアへの流刑に減刑。彼はシベリアで1747年にその生涯を終えました。

オステルマンの子供たちは、エカチェリーナ2世の時代になって宮廷に復帰。長男のフョードルはモスクワ総督、次男のイヴァンはスウェーデン大使、外務大臣、宰相を歴任しました。オステルマン家は、ロシアの歴史に大きな足跡を残した一族として記憶されています。彼の生涯は、才能と権力、そしてその脆さを物語る、ドラマチックなものでした。

もう一度検索