アンド・アイ・ラヴ・ハー

アンド・アイ・ラヴ・ハー：ビートルズの不朽の名曲

ビートルズの代表曲の一つ「アンド・アイ・ラヴ・ハー」(And I Love Her)は、1964年発表のアルバム『ハード・デイズ・ナイト』に収録された楽曲です。レノン＝マッカートニー名義ですが、主にポール・マッカートニーによって書かれ、彼の甘い歌声と美しいメロディーが魅力のラブソングとして知られています。アメリカではシングルカットされBillboard Hot 100で12位を記録するなど、世界中で愛される一曲となりました。

曲の構成と制作過程

EメジャーとC#マイナーを基調とした楽曲は、ソロ直前にFに転調し、Dメジャーで締めくくられる、シンプルな構成ながら奥深い魅力を持っています。マッカートニーが作詞作曲の中心人物ではありますが、興味深いのはミドルエイト部分です。ジョン・レノンは後にインタビューでミドルエイト部分に自分が関わったと主張しており、ビートルズの音楽出版者ディック・ジェームズもこの説を支持しています。レコーディング中のプロデューサー、ジョージ・マーティンの提案により、30分足らずでこの重要な部分が追加されたという逸話も残されています。マッカートニー自身はミドルエイトへのレノンの貢献を認めつつも、この楽曲の主体は自分であると主張しており、このエピソードは楽曲制作における二人の役割分担を改めて考えさせるものです。

マッカートニーは、この曲を特定の人物に向けて書いたわけではなく、普遍的な愛を歌ったラブソングだと語っています。また、ジョージ・ハリスンのギターリフが曲全体に素晴らしい変化をもたらしたと高く評価しています。この楽曲には、ジョージ・マーティンによるオーケストラアレンジ版も存在し、シングル盤やサウンドトラックアルバムにも収録されています。

緻密なレコーディング工程

「アンド・アイ・ラヴ・ハー」のレコーディングは、EMIレコーディング・スタジオのスタジオ2にて3日間に渡って行われました。プロデューサーはジョージ・マーティン、レコーディングエンジニアはノーマン・スミスとリチャード・ラングハムが担当しました。

1日目は映画『ビートルズがやって来るヤァ！ヤァ！ヤァ！』のサウンドトラック収録の一環として行われ、2テイク録音されました。しかし、ビートルズはテイク2の演奏に満足せず、より洗練された演奏を求めて、後日改めてレコーディングを行うことになります。

2日目と3日目には、計17テイクのレコーディングが行われ、この過程でリンゴ・スターの担当楽器がドラムからボンゴとクラベスに変更されたり、休憩中にミドルエイトが追加されるなど、様々な試行錯誤が見られます。テイク11の一部はドキュメンタリー『ザ・[[ビートルズ・アンソロジー]]』でも公開されています。最終的にテイク20がベーシックトラック、テイク21がリードボーカルとして採用されました。

多様なミックスとリリース

モノラルミックスとステレオミックスがそれぞれ2種類作成されており、いずれもテイク21を元に制作されました。モノラルミックスは3月3日と6月22日の2回作成され、それぞれ異なるマスタリングが施されています。ステレオミックスも6月22日に作成され、アルバム『ハード・デイズ・ナイト』や『サムシング・ニュー』に収録されました。ドイツ版の『サムシング・ニュー』には、ギターのリフが6回繰り返された編集版が収録されており、これはレアなバージョンとして知られています。

多彩なカバーと楽曲の遺産

「アンド・アイ・ラヴ・ハー」は、数々のアーティストによってカバーされています。特に有名なのは、カート・コバーンのカバーで、ドキュメンタリー映画『COBAIN: モンタージュ・オブ・ヘック』で初公開され、高い評価を得ました。エスター・フィリップスによる女性目線のカバー「アンド・アイ・ラヴ・ヒム」も人気を博しています。その他にも、ポール・マッカートニー自身のセルフカバーや、様々なアーティストによるカバーが存在し、この楽曲の普遍的な魅力が改めて示されています。

「アンド・アイ・ラヴ・ハー」は、シンプルながらも洗練されたメロディーと、制作過程におけるビートルズのメンバー間の創造的な交流、そしてレコーディングにおける様々な試行錯誤が織りなす、ビートルズの代表的な楽曲の一つと言えるでしょう。その魅力は時代を超えて多くの人々に愛され続け、音楽史に燦然と輝く一曲として語り継がれています。

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