アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト

アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトは、田中芳樹のSF小説『銀河英雄伝説』に登場する、銀河帝国の主要人物の一人です。「ファーレンハイト」と略称で呼ばれることが多いです。

概要

ローエングラム陣営の主要提督の一人であり、色素の薄い水色の瞳と鋭角的な顔立ちが特徴です。能動性と機動性に富んだ速攻を得意とし、攻勢に長けた勇将として知られています。下級貴族出身ながら、その才覚によって頭角を現し、31歳という若さでラインハルトの引き立てなしに少将にまで昇進しました。

物語序盤のリップシュタット戦役では、貴族連合軍側の将官としてラインハルトと敵対します。しかし、戦役後、その才能を高く評価したラインハルトに請われ、麾下に入ります。他の主要提督と同等の待遇を受け、その能力と人柄でラインハルトからの信頼も厚かったです。旗艦はアースグリムで、OVA版『新たなる戦いの序曲』ではダルムシュタットに搭乗しました。

本編では、アスターテ会戦で初登場し、リップシュタット戦役を経てラインハルト麾下に入ってからは、主要な戦闘に登場して活躍します。回廊の戦いで戦死後、特進で元帥となり、新要塞「三元帥の城（ドライ・グロスアドミラルスブルク）」にその名を残しました。

略歴

初登場時は、ラインハルトが上級大将としてアスターテ会戦を指揮した際の配下の分艦隊司令官（少将）でした。その後、ラインハルトが元帥に昇進して元帥府を開いた際には加わらず、リップシュタット戦役では門閥貴族側に属します。敗戦後、ラインハルトにその才能を惜しまれ、幕下に招かれて以降は、元帥府の一角を担う提督（大将）となり、古参の提督たちにも劣らぬ信任を得るようになります。

「神々の黄昏（ラグナロック）」作戦においては、ビッテンフェルトと共に予備兵力を率い、ランテマリオ会戦に参加しました。新王朝成立後、上級大将に昇進。大親征における回廊の戦い前哨戦では、先鋒のビッテンフェルトに続く形でヤン艦隊と交戦状態に入ります。回廊の地理的特性を巧みに利用したヤンの戦術に苦戦し、窮地に追い込まれますが、味方の撤退を助けるために殿軍を務め、乗艦が敵の集中砲火を浴びて戦死しました。

死後、元帥に昇進し、新造された要塞「三元帥の城」の名前は、彼とキルヒアイス、シュタインメッツの3人の戦死した元帥に由来します。

能力

作中では、機動的な用兵に長けた攻勢型の指揮官と評価されています。一方、迎撃戦では粘り強さに欠ける面もあるとされます。果敢な戦いぶりを見せる一方で、戦況を冷静に見極め、自らを律する心も持ち合わせた勇将型の指揮官です。「神々の黄昏」作戦や回廊の戦いなどでは、猛将ビッテンフェルトと同等の任務を与えられています。回廊の戦いでは、攻勢の強さを持つビッテンフェルトの戦意を抑制する役割も担っていました。

アスターテ会戦では、他の提督と共にラインハルトに撤退を進言しますが、作戦の説明を受けると納得し、作戦の成功に貢献します。ラインハルト指揮下の提督の中では最年少であり、メルカッツをはじめとする古参の提督が難色を示す中で、ファーレンハイトは好意的な表情を浮かべていました。

「神々の黄昏」作戦ではビッテンフェルトと共に予備兵力に配備されましたが、これは彼の攻勢の強さが評価されたものです。ランテマリオ会戦や、大親征におけるマル・アデッタ星域会戦では、同盟軍の本営への側面・後背攻撃を敢行しつつも、不利と判断すると迅速に撤退するなど、戦況に応じた柔軟な対応を見せ、その非凡さを示しました。

人柄

ラインハルトの生家であるミューゼル家に劣らぬ貧乏貴族の出身であり、「食うために軍人になった」と公言しています。しかし、貧しさからくる卑しさとは無縁の、廉直な人柄です。

リップシュタット戦役では貴族連合に属しますが、盟主ブラウンシュヴァイク公と実戦指揮官メルカッツの双方に対し、中立的な立場を保ちます。無謀な出撃を拒否し、ブラウンシュヴァイク公の暴論には毅然とした態度で反論しました。しかし、最後まで貴族連合を裏切ることはなく、敗北後は潔く捕虜となりました。

勇猛でありながら清廉な性格の持ち主であり、マル・アデッタ星域会戦後、同盟議長レベロを殺害して帝国側に下ろうとしたロックウェルらが、その「先例」としてファーレンハイトの名を挙げた際には、激怒し、ラインハルトの命を受けて彼らを処断しました。回廊の戦いでは、ビッテンフェルトの先走りに激昂する副官ザンデルスを、上官としてたしなめる思慮深さも見せています。

生涯最後の戦場となった回廊の戦いでファーレンハイトを追い詰めたのは、かつての戦友であり、リップシュタット戦役後にヤンの元に身を寄せたメルカッツでした。その報告を受けたファーレンハイトは、「本懐である」と清々しく受け止めたと言われています。また、重傷を負った自分と運命を共にしようとする幼年兵に対し、「戦死する時に子供を巻き込んだと言われてはヴァルハラで俺の席が狭くなる」と叱咤し、脱出を促しました。ファーレンハイトの戦死が報じられた際、メルカッツ自身も個人的に喪に服しました。

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