イガグリくん

イガグリくん：戦後日本の格闘漫画史に輝く、熱血柔道少年の物語

『イガグリくん』は、福井英一によって創作された日本の漫画作品です。熱血的な主人公イガグリくんを軸に展開する柔道漫画として知られ、福井英一の代表作であると同時に、日本の格闘漫画、スポーツ漫画の礎を築いた作品とも言われています。

作品の概要と歴史

1952年から1954年にかけて秋田書店の『少年少女冐險王』誌上で連載が開始されました。しかし、作者福井英一が過労により急逝したため、連載は一時中断。その後、清水春雄、そして有川旭一へとバトンが渡り、1960年まで連載が続けられました。

この作品が注目される理由は、単なるスポーツ漫画としてだけでなく、当時の日本の社会状況と深く関わっている点にあります。終戦後の日本において、柔剣道や時代劇といった題材はGHQ（連合国軍最高司令官総司令部）によって一時的に禁止されていました。『イガグリくん』は、サンフランシスコ平和条約締結後、こうした規制が解かれた直後に発表された、いわば「解禁第一号」ともいえる格闘漫画なのです。そのヒットは、他の漫画誌でも柔剣道や時代劇を題材とした作品が次々と生まれるきっかけとなりました。

福井英一が執筆した最終回は、主人公イガグリくんが試合中に危機に陥ったところで終わっています。そこから物語は有川旭一によって引き継がれ、イガグリくんの必殺技誕生と勝利へと繋がりました。福井版では、空手家との対戦を除けばほとんどが柔道の試合でしたが、有川版ではプロレスなど異種格闘技の要素や怪人登場といった猟奇ミステリー的な要素が加えられたと指摘されています。この変化は、後に多くの格闘漫画に影響を与えた梶原一騎の作品にも通じるものがあるとも言われています。

登場人物

主人公のイガグリくん（伊賀谷栗助）は、正義感の強い熱血漢で、正々堂々とした柔道精神を貫く少年です。得意技は巴投げ。多くのトロフィーをコレクションしており、亡き母の形見のお守りが縫い付けられた柔道着を大切にしています。

イガグリくんのライバルや仲間たちも個性豊かに描かれています。東中学柔道部の主将・今久は最初はイガグリくんと対立しますが、後に友人となります。西中学柔道部の主将・安古は、イガグリくんを倒すために様々な策略を巡らせます。その他にも、山嵐や熊皮など、多くのライバルが登場し、イガグリくんの成長を促します。

作品の影響と評価

『イガグリくん』は、戦後日本の格闘漫画において先駆的な作品として高い評価を受けています。夏目房之介は、手塚治虫の作品と比較しながら、感情描写やコマ割りはシンプルながらも、読者にとって分かりやすい表現を用いていたと分析しています。また、手塚治虫とは異なる漫画の源流の一つになった可能性も指摘されています。

『ドカベン』の水島新司も、本作に影響を受けた一人です。山田太郎の師匠として、イガグリくんと同じ名前のキャラクターが登場するエピソードがあります。しかし、夏目房之介の記述にある「伊賀谷栗助はドカベンの柔道の師匠」という表現は、正確性に欠ける点に注意が必要です。

その他

『イガグリくん』は1994年に復刻版が発行され、2014年にはデジタル配信サイトJコミでも配信が開始されました。Jコミにおける初の著作権消滅作品として話題となりました。さらに、1960年にはテレビドラマとして放送され、日清食品がスポンサーを務めたことでも知られています。

まとめ

『イガグリくん』は、戦後日本の漫画史、特に格闘漫画、スポーツ漫画の発展に大きな足跡を残した作品です。熱血少年の物語としてだけでなく、時代の流れや社会状況を反映した作品としても、その価値は高く評価されています。 現在でも、復刻版やデジタル配信を通じて、その魅力に触れることができます。

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