イギリス陸軍ライン軍団

イギリス陸軍ライン軍団（British Army of the Rhine, BAOR）は、イギリス陸軍の精鋭部隊として、ドイツにおいて二度にわたって編成されました。第一次世界大戦後には進駐軍として、第二次世界大戦後には、1945年8月25日、第21軍集団を改編する形で新たに編成されました。

当初のBAORは、第二次世界大戦終結後のドイツ占領におけるイギリス担当区域の軍政を担当する重要な役割を担いました。占領地におけるイギリス軍の責任は、秩序維持、軍政の実施、そして復興支援に及びました。この期間、BAORは、地域社会との協力、インフラ整備、そして経済復興の促進など、多岐にわたる任務に従事しました。

占領下のドイツにおける民政移管が進展していくと、国際情勢は冷戦へと突入。東側諸国からの潜在的な脅威に対応するため、BAORの任務は大きく変化します。冷戦期において、BAORは北大西洋条約機構（NATO）北部軍集団（NORTHAG）の中核を担うイギリス第1軍団の主力部隊として、重要な役割を担いました。西側陣営防衛の最前線に位置するBAORは、東側諸国への抑止力として、常に緊張感を持って任務に臨みました。大規模な軍事演習や、最新の兵器・装備の導入による訓練などが繰り返し行われ、常に万全の備えが求められました。

BAORの活動は地上部隊に留まりませんでした。空軍においても、ドイツ駐留イギリス空軍（Royal Air Force Germany, RAFG）が編成され、在欧アメリカ空軍（United States Air Force in Europe, USAFE）と共に西ドイツに駐屯。西ドイツ空軍と協力し、西ドイツの防空、対地攻撃、偵察任務など、多様な任務に備えました。地上部隊と空軍部隊の緊密な連携は、西側陣営の防衛体制を強化する上で不可欠でした。

冷戦終結後、国際情勢の変化に伴い、BAORは規模を縮小。1994年には、在独イギリス軍（British Forces Germany, BFG）に改編されました。しかし、イギリス軍のドイツ駐留は継続され、BFGはドイツにおけるイギリス軍の存在感を維持しました。長年にわたり、BFGは様々な任務を行い、ドイツとイギリスの関係強化に貢献しました。そして2020年2月、最後の駐留基地をドイツ連邦軍に返還し、常駐部隊としての活動に終止符を打ちました。現在も、イギリス陸軍はドイツに駐留部隊を維持していますが、その規模はかつてのBAORやBFGとは大きく異なっています。

BAORの歴史は、冷戦時代のヨーロッパにおけるイギリスの役割を示す象徴的なものです。その存在は、西側陣営の防衛に大きく貢献し、同時に、ドイツとの協力関係の維持や発展に重要な役割を果たしました。BAORの活動は、平和と安全の維持に尽力した歴史として、今も記憶されています。

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