イバル川

イバル川（セルビア語: Ибар, Ibar、アルバニア語: Ibër, Ibri）は、モンテネグロ、コソボ、セルビアの三国を跨いで流れる、全長272kmの河川です。ハイラ山を源流とし、ザーパドナー・モラヴァ川へと合流するこの川は、地域の人々にとって重要な存在であり続けています。

名称の由来

イバル川の名称の由来については、決定的な説は存在しません。有力な説としては、以下のものがあります。

イリュリア語の「ibard」（ブロンド、明るいを意味する）に由来する説
バスク語の「Ibēr」（川を意味する）に由来し、スペインのエブロ川と同源であるとする説
* かつての名称「ヒベルス」がギリシャ語に由来する説

これらの説は、イバル川が多様な文化の影響を受けてきたことを示唆しています。

流路

イバル川は、モンテネグロのハイラ山から北東方向に流れ出し、セルビアへと入ります。ラシュカ郡の南端を流れる間には、周囲の山々からの水を集めます。この地域は、セルビアとモンテネグロを結ぶ重要な街道の一つでもあります。

さらに南下してコソボに入ると、ガジボダ湖、プリドヴォリツァ湖といった人造湖が建設されています。その後、鉱業都市ミトロヴィツァを通過し、流れを北に変えると、シトニツァ川が合流します。

再びセルビア領に入ると、ラシュカ川、ストゥデニツァ川などの支流が合流します。その後は、ゴリヤ山、チェメルノ山、トログラヴ山といった山々と、ジェリン山、ストロヴィ山に挟まれた峡谷を蛇行しながら流れます。この地域は、「歴史の谷」「ライラックの谷」「温泉の谷」など、様々な名前で呼ばれています。コパオニク山脈の豊かな鉱物資源（鉄鉱石、ニッケル、アスベスト、菱苦土鉱、無煙炭など）に恵まれる一方で、かつてはフェノール汚染が深刻な問題となったこともありました。

最終的に、イバル川はクラリェヴォ近辺でザーパドナー・モラヴァ川に合流し、ドナウ川を経て黒海へと注ぎ込みます。

水力発電計画

2009年、セルビアとイタリアはイバル川での水力発電所建設で合意し、10か所に発電所を建設する計画が持ち上がりました。合弁会社設立、国会での承認を経て事業が進められるかに見えましたが、2011年にイタリア政府が海外投資を削減する方針に転換したため、この合意は破棄されました。この結果、移転予定だったボヤニチの住民は移住を免れましたが、既に道路の付け替え工事は4か所で行われていました。2021年に計画は期限切れとなりましたが、2023年1月には専門家から建設の容易さ、予算の少なさから再考を求める声も上がっています。

イバル川は、その豊かな水流と歴史を通じて、地域の人々の生活と深く結びついています。今後の水力発電計画の行方を含め、その流れはこれからも注目を集めるでしょう。

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