イリュージョニスト (2010年の映画)

イリュージョニスト

『イリュージョニスト』は、フランスの映画監督シルヴァン・ショメが手掛けた長編アニメーション作品です。巨匠ジャック・タチが生前に執筆し、未映像化だった脚本をショメ監督が独自の視点で脚色し、2010年に完成させました。原題はフランス語で『L'Illusionniste』、英語では『The Illusionist』と表記されます。

物語のあらすじ

舞台は1950年代のヨーロッパ。主人公は、時代の波に乗り切れず、斜陽産業と化しつつある奇術の世界で生きる一人のベテランマジシャン、タチシェフです。彼は各地の劇場や小さな催し物を渡り歩き、旧式のイリュージョンを披露する日々を送っていました。

ある時、タチシェフはスコットランドの、電気さえほとんど通っていないような辺境の離島にある村でパフォーマンスを行う機会を得ます。そこでは都会では顧みられなくなった彼の古風な手品も、文明の利器に馴染みのない村人たちには新鮮で、温かく迎えられます。村の小さな酒場で働く若い娘、アリスは、タチシェフの技を本物の魔法だと信じ、彼に強く惹きつけられます。

タチシェフが次の土地へと旅立つ日、アリスは彼の後を追って島を出てしまいます。思いがけない押しかけ同行者の出現に驚きながらも、タチシェフはアリスを邪険にすることなく受け入れ、エディンバラへと向かいます。

エディンバラに到着した二人は、古びた安宿に滞在することになります。そこには腹話術師や軽業師、ピエロといった、タチシェフと同じように時代の変化に苦労しながらも各地を巡業する芸人たちが身を寄せていました。タチシェフは、故郷に残してきた娘の面影をアリスに重ね合わせ、彼女を娘のように可愛がります。アリスが求めるままに新しい服や靴などを買い与え、その費用を捻出するため、劇場での本業の合間に、慣れないアルバイトにも精を出すようになります。

都会の生活の中で、純朴だったアリスは次第に洗練されていきます。一方、安宿の仲間たちは、時代の荒波の中で居場所を失うかのように、一人、また一人と静かに去っていきます。アリスが大人への階段を上り、自立していく姿を見守りながら、タチシェフもまた、自身の役割が終わり、舞台から静かに姿を消すべき時が来たことを悟るのです。

この物語は、言葉が少なく、登場人物の表情や仕草、そして背景美術によって語られます。時代の流れに取り残されゆく伝統的なエンターテイナーの哀愁と、擬似的な父娘の間に芽生える温かい絆、そして避けられない別れが、詩情豊かに描かれています。

公開

本作は、2010年のベルリン国際映画祭で初めて上映され、高い評価を得ました。その後、フランスおよびイギリスでは、映画会社パテの配給により同年内に劇場公開されました。日本では、クロックワークスと三鷹の森ジブリ美術館の共同配給によって、翌2011年に公開されています。

評価

『イリュージョニスト』は、その美しい映像表現と感動的なストーリーテリングにより、公開後、国内外で多くの映画祭や批評家から称賛を受け、様々な賞にノミネート、受賞を果たしました。

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