イル・デ・パン

概要

イル・デ・パン（フランス語: Île des Pins）は、南太平洋に浮かぶフランスの海外領土、ニューカレドニアを構成する島の一つです。カナックの人々からはクニエ（Kunyié）と呼ばれており、その名の通り「海の宝石箱」とも称されるほどの美しい景観を持っています。特に、その類稀な自然の魅力から「天国にもっとも近い島」（フランス語: l'île la plus proche du paradis）というニックネームで知られています。

地理的には、ニューカレドニア本島であるグランドテール島の南東約100キロメートルに位置しており、南緯22度37分、東経167度29分にあります。島の大きさは南北におよそ15キロメートル、東西に13キロメートル程度です。この島を中心として、周辺の小さな島々（コトモ島、ノカンウイ島など）や遠方のウォルポール島を含めた行政区域全体も「イル＝デ＝パン」という同名のコミューン（基礎自治体）を形成しています。

自然環境

イル・デ・パンの最大の魅力は、息をのむほどに美しいラグーンと、その高い透明度を誇る海水です。島は広大なニューカレドニア・バリア・リーフに囲まれており、多様な種類の熱帯魚や色鮮やかな珊瑚礁が観察できることから、シュノーケリングやスクーバダイビングの人気の目的地となっています。

島の陸上にも独特の生態系が見られます。特に、世界最大のヤモリとされるツギオカミカドヤモリや、オウカンミカドヤモリといったユニークな爬虫類が生息しています。また、この島固有種のエスカルゴも知られており、島の特産品として島内でのみ食用とされ、島外への持ち出しは許可されていません。

島の景観を象徴するのが、スラリとした樹形の固有種のナンヨウスギ（Araucaria columnaris）です。島の名称「松の島」も、この木に由来しています。島内には標高262メートルのエンガ山（Puc N'Ga）があり、これは島の最高地点で、比較的容易に登山が可能です。

歴史的背景

イル・デ・パンが西洋によって初めて記録されたのは、1774年にイギリスの探検家ジェイムズ・クックがニュージーランドへの航海中にこの島を発見した時です。クックは島のナンヨウスギを見て「松の島」と名付けましたが、上陸はせず、遠方から住民の存在を確認したと伝えられています。

1840年代に入ると、白檀の貿易商人が島を訪れるようになり、それに続いてプロテスタントとカトリックの宣教師も上陸しました。この時期に多くの島民がカトリック信仰を受け入れたとされています。

1853年、フランスがこの島に対する領有を宣言し、フランスの支配下に置かれました。その後の1872年には、フランス本国からの流刑地として利用されるようになり、特にパリ・コミューンに参加した約3,000人もの政治犯がこの島に送られました。しかし、流刑の期間は比較的短く、1879年には全員が赦免されてフランス本国へ帰還しました。

行政・社会と経済

行政の中心地であるバオ集落は、イル・デ・パン島の南東部に位置し、市庁舎や教会、学校、銀行などが集まる島最大のコミュニティです。その他にもクト、コジュー、オロといった集落があり、それぞれに特色があります。島の住民の大多数は、この地域の先住民族であるメラネシア系のカナックの人々であり、人口構成の9割以上を占めています。2006年時点での島全体の人口は約2,000人です。

島経済は主に観光に支えられています。国際的なリゾートホテルから、地元住民が経営するアットホームなバンガローまで、様々な宿泊施設があります。特に人気のダイビングなどのアクティビティに関しては、コジューにあるクニエ・スクーバ・センターが主要なサービスを提供しています。島内には大規模な商業施設はなく、食料品店がわずかに点在する程度で、日常的な買い物には限界があります。

交通については、島の内陸部にあるイル・デ・パン空港と、ニューカレドニア本島のヌーメアにあるマジャンタ空港を結ぶ定期航空便が運航されています。また、ヌーメアとの間には週に数便の高速船もあります。島内の移動手段はレンタカーや数少ないタクシーが中心ですが、幹線道路以外は未舗装の道が多いため注意が必要です。

その他の特記事項

観光地としても知られるカヌメラ湾には、干潮時に陸続きとなる小さな島がありますが、この小島については地元の特定の一族が私有地であると主張しており、許可なく立ち入るとトラブルになるケースが報告されています。

また、2002年にはこのカヌメラ湾の小島で日本人女性の殺害事件が発生しました。島の所有権を主張していた地元の一族の男性2名が逮捕・起訴されましたが、物的な証拠が乏しく、状況証拠のみでは有罪と判断されず、無罪判決が出ています。この事件は現在も未解決のままです。

もう一度検索