インサイダーケン

『インサイダーケン』は、漫画家・島本和彦によって生み出された作品です。主にPCゲーム雑誌『ログイン』（アスキー刊）にて連載されました。この物語は、劇中の出来事を現実の体験に変えてしまう特殊能力「インサイド」を持つ人々の戦いと苦悩を描いています。

連載終了後、『インサイダーケン』の世界観は同作者の別作品『ワンダービット』へと引き継がれ、その中で『さらばインサイダーケン』という形で再び描かれました。ここでは、『インサイダーケン』本編に加え、『さらばインサイダーケン』についても触れていきます。

掲載と作者の評価

本作は、パソコン関連メディアであった『ログイン』に掲載された経緯を持ちます。作者である島本和彦氏自身は、連載中にこの作品を失敗作と感じていた時期があったようです。編集部から連載の終了と別作品への移行を提案された際には、即座に同意したと自身の著書『島本和彦のマンガチックにいこう!』で語っています。しかし、意図せずして abrupt に幕を下ろしたその結末を含め、後には「好きな作品の一つ」としてこの『インサイダーケン』を回想しています。

単行本はアスキーより刊行されており、ISBN 4756106617として登録されています。初版は1992年 12月22日に発売されました。

物語の世界観と能力「インサイド」

物語の根幹をなすのは、特殊能力「インサイド」を持つ者たち、すなわち「インサイダー」の存在です。インサイド能力とは、漫画やゲームなどの劇中に深く感情移入し入り込むことで、その劇中で起こった出来事を現実の世界でそのまま体験してしまうというものです。

この能力の恐ろしい点は、劇中の出来事が文字通り現実になってしまうことです。例えば、劇中で登場人物が怪我をすれば、インサイダー自身も現実世界で同じような怪我を負います。さらに能力の高いインサイダーになると、劇中に登場するモンスターの肉を食べれば、そのモンスターの味が現実でも再現されてしまうほどです。そのため、インサイダーにとって、物語の結末がハッピーエンドであるか、バッドエンドであるかは非常に重要な問題となります。また、結末が予測不能で、リアルタイムで進行していく性質を持つゲームなどは、インサイダーが現実で予期せぬダメージを受けるリスクが高いことから、彼らにとって敬遠されがちな媒体となります。

主要な登場人物

実体験 (インサイダーケン)
本作の主人公であり、インサイダーの一人です。通称は「インサイダーケン」、または単に「ケン」。名前の由来は「実体験」から来ています。『インサイダーケン』本編では、劇の流れに逆らうことはあまりありませんでしたが、『さらばインサイダーケン』ではその能力が進化し、劇中の著作物を自らの意思で改変する力をも持つようになります。

夜目羅恋 (よめられん)
物語のヒロインを務めるインサイダーです。名前は「やめられん」という言葉から取られています。彼女もまた高いインサイド能力を持っています。

秋葉 (あきば)
ケンをゲームの世界へと引き込んだ友人です。プログラミングに長けており、学校のパソコン同好会に所属しています。完全なインサイダーではないものの、多少のインサイド能力を持っているようです。名前は「秋葉原」にちなんでいます。同好会の会員である西武A子に密かに憧れています。

西武A子 (せいぶエーこ)
秋葉と同じパソコン同好会の会員で、彼女もまた多少のインサイド能力を持っています。名前の由来は、ゲームなどでデータを保存する際の「セーブA」から来ていると推測されます。

ハイリー・コンドル
巨大財団、コンドル財団の御曹司です。インサイダーの研究を行っており、その道楽ぶりはゲーム空間を現実に再現する装置を開発するほどです。名前は「入りこんどる」という言葉遊びから付けられています。

女牙重傑 (めがじゅうけつ)
「アウトサイダー」と呼ばれる存在で、インサイダーを専門に潰すことを生業としています。その名前は「目が充血」という状態を示唆しています。

* 首藤レイ (しゅとうレイ)
『さらばインサイダーケン』に登場する発明家です。著作物の改変を行うようになったケンを止めるため、インサイダーと同等の力を発揮できる発明品を開発し、ケンと対決することになります。

『インサイダーケン』は、劇中と現実の境界が曖昧になる奇妙な能力を通して、エンターテイメントとの向き合い方や、物語への過剰な没入がもたらす影響などを描いた、島本和彦らしい熱量を持った作品と言えるでしょう。

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