インセル

インセル（Incel）とは

インセル（Incel）とは、"involuntary celibate"（不本意な禁欲主義者）の略称で、主にインターネット上で形成されたコミュニティを指す言葉です。異性との恋愛関係を築けない、あるいは結婚できない状況を嘆き、その原因を社会や女性に求める思想を持つ人々を指します。

多くは若年層の白人男性異性愛者であり、女性蔑視（ミソジニー）、自己憐憫、社会に対する不満、そして時には暴力的な言動を伴うことが特徴です。アメリカの「南部貧困法律センター」（SPLC）からは、ヘイトグループの一種として認識されています。

インセルの思想的背景

インセルの思想的背景には、「レッドピル」や「ブラックピル」と呼ばれる理論があります。これは、社会の不平等や、性的な魅力における競争は生まれつき不公平であるという考え方です。彼らは、自身を遺伝的な弱者とみなし、社会から不当に扱われていると感じています。

コミュニティ内では、性的魅力のある男性を「チャド (chad)」、そのような男性を選ぶ女性を「ステイシー (stacy)」と呼び、敵視する傾向があります。これらの言葉は、インターネット掲示板4chanから派生したものです。

インセルの歴史

「インセル」という言葉自体は、元々パートナーのいない人々を支援する目的でカナダ人女性が作ったウェブサイトから生まれました。しかし、その後、インターネット上で女性蔑視的な思想を持つ人々を指す言葉として広まりました。

彼らは、Redditや4chanなどのプラットフォームで、フェミニズムへの攻撃、女性差別、人種差別、同性愛差別などの投稿を繰り返しています。中には、女性への暴力を肯定する過激な思想を持つ者も存在します。

インセルによる事件

近年、インセルを自称する人物による無差別殺傷事件が、北米を中心に発生しています。2014年には、カリフォルニア州でエリオット・ロジャーが銃乱射事件を起こし、6人を殺害しました。彼は、女性への復讐を謳う声明をネット上に残しており、インセルのコミュニティ内では英雄視されるようになりました。

その他にも、2015年のオレゴン州での短大銃乱射事件、2018年のトロントでの車両突入事件など、インセルの思想に影響を受けたとされる事件が複数発生しています。

これらの事件は、インセルのコミュニティが単なるオンライン上の集まりではなく、現実社会に危険を及ぼす可能性を秘めていることを示しています。

インセルの問題点と対策

インセルのコミュニティは、女性蔑視的な思想を助長し、暴力を肯定する過激な思想を広める温床となっています。そのため、メディアや研究者からは、その危険性が指摘されています。

インセル問題への対策としては、以下の点が考えられます。

インターネットプラットフォームにおけるヘイトスピーチ対策の強化
若年層に対する包括的な性教育の実施
メンタルヘルスのサポート体制の充実
社会的な孤立を防ぐためのコミュニティ形成の支援

インセル問題は、単にインターネット上の問題として捉えるのではなく、社会全体で取り組むべき課題です。偏見や差別をなくし、誰もが生きやすい社会を目指すことが、根本的な解決策となるでしょう。

関連用語

ミソジニー（女性嫌悪）
ルッキズム
MGTOW
弱者男性
* ローンオフェンダー

もう一度検索