インティ (通貨)

ペルーの通貨「インティ」：ハイパーインフレ時代の苦闘

ペルーでは、1985年2月1日から1990年12月31日まで、「インティ (Inti)」という通貨単位が使用されていました。これは、深刻な経済危機に見舞われたペルーにおいて、旧通貨「ソル」に代わるものとして導入されました。

経済危機とインティの誕生

1980年代半ば、ペルー経済は大きな打撃を受けました。一次産品の価格暴落、累積債務問題の悪化、そして慢性的なインフレが重なり、国民生活は深刻な危機に陥っていました。1980年以降は毎年2倍近いペースで物価が上昇するハイパーインフレの状況の中、政府は旧ソルからの通貨単位の切り替え（デノミネーション）を決断し、インティを導入したのです。インティと旧ソルの交換比率は1インティ＝1000旧ソルとされました。

インティ導入当初は、1インティ＝100センティモという補助単位であるセンティモも存在し、硬貨と紙幣が発行されました。しかし、インフレの加速は止まらず、1988年にはセンティモは廃止されました。

インフレに翻弄される通貨

インフレは想像を絶する速さで進行し、インティの価値は急速に目減りしていきました。そのため、政府は次々と高額紙幣を発行せざるを得ませんでした。1000インティ、5000インティ、1万インティ、5万インティ、10万インティ、50万インティ、そして100万インティ、500万インティと、額面はどんどん大きくなっていきました。

当初は硬貨も発行されましたが、インフレにより、硬貨の額面と鋳造コストのバランスが崩れ、流通は限定的なものにとどまりました。高額の硬貨を鋳造しても、すぐに価値を失ってしまうためです。例外として、貨幣収集家向けの貴金属製硬貨は発行されましたが、額面とは無関係の販売価格で取引されました。

闇市場と外貨不足

債務不履行と治安悪化により、海外からの資金流入は途絶え、ペルーは深刻な外貨不足に陥りました。政府は外貨の管理を強化し、「公定レート」という人為的な為替レートを設けましたが、これは国民が外貨を売却する場合にのみ適用されました。外貨を購入する場合は、非公認の闇市場「メルカード・ネグロ」に頼らざるを得ませんでした。

インティ・エン・ミリョネスと新ソルの導入

1990年に年率8000％に達したインフレは、徐々に収束に向かいました。1991年、政府は新通貨「新ソル」への移行を円滑に進めるため、一時的に「インティ・エン・ミリョネス (Inti en Millones)」という仮想通貨を導入しました。これは、従来のインティの百万倍の価値を持つものでした。しかし、インティ・エン・ミリョネス建ての紙幣や硬貨は発行されず、実際の取引では従来のインティが使用され続けました。その後、新ソルとの併用期間を経て、1992年にインティは完全に廃止されました。

インティは、ペルーの経済危機とハイパーインフレを象徴する通貨でした。その短い歴史は、ペルー経済の困難さと、通貨制度の変遷を如実に物語っています。

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