インディアン・エクスプレス

インドを代表する英字日刊紙の一つに『インディアン・エクスプレス』があります。1932年に創刊され、長い歴史の中でインドの政治、社会、文化に大きな影響を与えてきました。現在は、ノイダに本社を置くインディアン・エクスプレス・グループによって所有・発行されています。

歴史

この新聞の歩みは、1932年にマドラス（現チェンナイ）で、アーユルヴェーダ医師であったP・ヴァラダラージュル・ナイドゥ氏によって始まったことに遡ります。しかし、創刊から間もなく資金難に直面し、経営は立ち行かなくなります。そこで、経営権は『フリー・プレス・ジャーナル』を率いていたS・サダーナンド氏に譲渡されました。

サダーナンド氏のもと、事業は拡大を試みます。1933年にはマドゥライに支店を開設し、タミル語での新聞『ディナマニ』を新たに創刊しました。また、『インディアン・エクスプレス』の購読価格を引き下げるなど、販売促進のための改革も行われます。しかし、こうした努力にもかかわらず資金的な問題は解消されず、サダーナンド氏は持ち株の一部を転換社債という形でラームナート・ゴーエンカー氏に売却することを余儀なくされました。その後、1935年にサダーナンド氏が経営していた『フリー・プレス・ジャーナル』が破産した結果、『インディアン・エクスプレス』の全所有権がラームナート・ゴーエンカー氏の手に渡ることとなりました。

ゴーエンカー氏は経営者として手腕を発揮します。1939年にはテルグ語紙『アーンドラ・プラバ』を買収するなど、事業を積極的に拡張しました。『インディアン・エクスプレス』、『ディナマニ』、そして『アーンドラ・プラバ』は、南インドの報道市場において主要な位置を占めるようになります。

逆境からの再建

1940年、『インディアン・エクスプレス』は大きな試練に直面します。マドラスの事務所が火災により焼失したのです。しかし、この困難な状況で手を差し伸べたのは、ライバル関係にあった『ザ・ヒンドゥー』でした。『ザ・ヒンドゥー』は自社の印刷所を貸し出し、新聞の発行継続を支援します。さらに、『ザ・ヒンドゥー』が所有していた土地の一部を借り受け、そこに『インディアン・エクスプレス』の新たな拠点となる「エクスプレス・エステート」が建設されました。ゴーエンカー氏は、再建に合わせて高速印刷が可能な新しい印刷機を導入するなど、設備投資も行いました。火災の原因については、地方判事による調査の結果、事務所内の電気配線のショートやタバコの不始末が示唆され、当時の都市における不十分な防火体制も原因の一つとして挙げられました。

この火災という逆境を乗り越え、事業は再び成長軌道に乗ります。新聞の発行部数は着実に増加し、1952年には4万4469部を記録するなど、その影響力を強固なものとしていきました。

グループの分裂と新たな展開

1991年にラームナート・ゴーエンカー氏が死去した後、インディアン・エクスプレス・グループの経営は彼の孫であるマノージュ・クマール・ソンタリア氏とヴィヴェーク・ゴーエンカー氏に引き継がれました。しかし、1999年にグループは実質的に二つに分裂します。ヴィヴェーク氏が現在のインディアン・エクスプレス・グループを引き継ぎ、『インディアン・エクスプレス』紙の発行権（主に北インド向け、拠点はムンバイ）を掌握。一方、マノージュ氏は南インドの発行権を持つ「エクスプレス・パブリケーションズ（マドゥライ）」を承継し、新たに『ニュー・インディアン・エクスプレス』を創刊しました。これにより、『インディアン・エクスプレス』は主に北インドを対象とした新聞として再出発することとなります。

グループが分裂する以前の1996年には、インターネット上での新聞発行を先駆けて開始しており、デジタルメディアへの対応もいち早く進めていました。オンライン版は開始後わずか5ヶ月で1日のアクセス数が70万回に達するなど、その情報発信力はデジタル空間でも発揮されました。

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