インモラル物語

『インモラル物語』（原題：Contes immoraux）は、1974年に公開されたフランスのオムニバス映画です。ワレリアン・ボロズウィックが監督を務め、人間の深層心理に潜む欲望と倒錯を、大胆かつ芸術的に描いています。映画は、異なる時代と場所を舞台にした4つのエピソードで構成されています。

第1話：満潮

現代を舞台に、大学生のアンドレは、休暇を過ごすためにノルマンディーの叔母の家へやってきます。そこで彼は、美しい従妹のジュリーに惹かれ、満潮時に性的な快楽を求めるという衝動に駆られます。人里離れた海辺で、アンドレはジュリーを誘い、禁断の行為に耽ります。このエピソードは、若者の性的な目覚めと、抑えきれない欲望を描いています。

第2話：性書テレーズ

1890年、日曜のミサをさぼったテレーズは、罰として物置小屋に閉じ込められます。退屈しのぎに秘本を見つけた彼女は、そこに書かれた内容に好奇心を刺激され、手にしたキュウリを自らの局部に押し当てます。その行為が予期せぬ快楽につながることを知ったテレーズは、小屋から逃げ出し、春の野原で解放感を味わいます。しかし、そこで彼女は浮浪者に襲われてしまいます。このエピソードは、抑圧された環境下での女性の性的な目覚めと、暴力的な現実を描いています。

第3話：女伯爵バトリー

1610年、ハンガリーの領主バトリー伯爵夫人エリザベートは、領地を巡回する際に、処女を連れ帰るという異常な行為を繰り返していました。集められた処女たちは裸にされ、夫人の寝室に集められます。そこで夫人は、レースをまとった姿で現れ、処女たちの身に着けるものを奪い合う様をマゾヒスティックに見つめます。やがて、イスファンという従者が現れ、処女たちの血で満たされた風呂に夫人を浸らせます。しかし、そのイスファンは実は男装した美少女であり、夫人を裏切って逮捕させます。このエピソードは、エリザベート・バートリーをモデルに、貴族の退廃と残虐性を描いています。

第4話：ルクレチヤ・ボルジア

1498年、ローマ教皇アレクサンドル6世は、娘ルクレチアの婿が不能であることをいいことに、彼女と関係を持ちます。当時のローマでは、教会の腐敗に対する批判が高まっており、宗教改革の機運が高まっていました。アレクサンドルは、ルクレチアを裸にし、兄のチェザーレも巻き込み、禁断の愛に耽ります。月が満ちる頃、ルクレチアは子供を出産します。このエピソードは、ボルジア家の血縁関係の複雑さと、教会の腐敗を背景に、権力者の欲望と退廃を描いています。


『インモラル物語』は、人間の欲望の深淵を覗き込むような、衝撃的で芸術的な作品です。それぞれの物語は、人間の性的な衝動、禁断の愛、権力者の腐敗など、普遍的なテーマを描いています。ワレリアン・ボロズウィック監督の独特な映像美と、俳優たちの熱演が、観る者を物語の世界へと引き込みます。

この映画は、性的な表現や暴力的な描写を多く含んでおり、観る人によっては不快に感じる可能性があります。しかし、そのタブーに踏み込んだ表現こそが、人間の本質を炙り出すという芸術的な意義を持っていると言えるでしょう。

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