イン・スルー・ジ・アウト・ドア

レッド・ツェッペリン『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』

『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』は、イギリスのロックバンド、レッド・ツェッペリンが1979年8月15日に発表した8枚目のスタジオ・アルバムです。プロデューサーはジミー・ペイジ、レコーディング・エンジニアはレイフ・マッセスとレンナート・オストランドが担当しました。ドラマー、ジョン・ボーナムの急逝により、バンドにとって最後のオリジナル・アルバムとなりました。

制作の背景

1977年のアメリカン・ツアー中、メンバーの不祥事やロバート・プラントの息子を亡くすという悲劇が重なり、バンドは活動休止を余儀なくされます。その間、音楽シーンではパンク・ムーブメントが台頭し、レッド・ツェッペリンのようなベテラン・ロックバンドは批判の対象となり、解散説も囁かれるようになりました。1978年、バンドは再始動に向けて動き出しますが、それはバンドの存続を賭けたものでもありました。

録音

アルバムはスウェーデンのポーラー・スタジオでレコーディングされました。本作の特徴は、ジョン・ポール・ジョーンズの存在感が際立っていることです。彼は当時最新鋭だったシンセサイザー、ヤマハGX-1を導入し、全曲でキーボードを演奏しました。これは前作『プレゼンス』とは対照的です。ジョーンズの貢献が大きかった一方で、ジミー・ペイジの作者クレジットは比較的少なくなっています。ペイジは制作当時、意欲を失っていたのではないかという噂もありましたが、彼はこれを否定しています。ミキシングは1979年2月に完了し、同年8月にリリースされました。

アルバム・タイトルは「出口から中へ」という意味で、バンドが解散の危機やパンク・ムーブメントの逆風に立ち向かい、カムバックを果たすという当時の状況を風刺したものとなっています。レコーディング・セッションで録音されたものの、アルバムに収録されなかった「オゾン・ベイビー」、「ダーリーン」、「ウェアリング・アンド・ティアリング」は、後にアルバム『最終楽章 (コーダ)』に収録されました。

アートワーク

アートワークはヒプノシスが担当しました。セピア色を基調としたジャケットは、バーのカウンターに座る男の場面を6人の人物それぞれの視点から捉えた6種類のデザインが用意され、購入するまでどのジャケットが入っているかわからないという仕掛けが施されていました。また、内袋には水で濡らすと発色する特殊印刷が施されていました。

評価と影響

『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』は、評論家の予想を覆し、アメリカで1位を獲得し、7週間その地位を維持しました。しかし、ニュー・ウェイヴに迎合していたメディアからは酷評され、旧来のファンからもシンセサイザーを主体としたサウンドが不評を買うなど、賛否両論がありました。音楽評論家の渋谷陽一も、発売当時のライナーノーツで戸惑いを隠せない様子を綴っています。しかし、アルバムは多様性に富んでおり、「フール・イン・ザ・レイン」でのサンバのリズムの導入や、「ホット・ドッグ」でのカントリー＆ウエスタンへの挑戦など、新たな試みが見られます。

楽曲

A面
1. イン・ジ・イヴニング
2. サウス・バウンド・サウレス
3. フール・イン・ザ・レイン
4. ホット・ドッグ

B面
1. ケラウズランブラ
2. オール・マイ・ラヴ
3. アイム・ゴナ・クロール

リリース

1986年に初CD化され、1993年にはリマスター版がリリースされました。2015年には最新リマスター版がリリースされ、デラックス・エディションには各曲のラフ・ミックス・バージョンが収録されています。

『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』は、レッド・ツェッペリンの多様な音楽性を堪能できる作品であると同時に、バンドの苦境と終焉を象徴するアルバムとしても記憶されています。

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