ウィリアム・コーリー賞

ウィリアム・コーリー賞（正式名称: William B. Coley Award for Distinguished Research in Basic and Tumor Immunology）は、免疫学、特に癌免疫学の分野における顕著な貢献や発見を称えるために設立された、権威ある国際的な学術賞です。

この賞は、アメリカ合衆国に拠点を置くCancer Research Institute (CRI) によって運営・授与されています。その名称は、細菌感染が癌の退縮を引き起こす現象に着目し、「コーリーの毒素」と呼ばれる混合ワクチンを用いて癌免疫療法の道を切り拓いた先駆的な外科医・研究者、ウィリアム・コーリー医師の功績を記念して名付けられました。

歴史と目的

ウィリアム・コーリー賞は1975年に創設されました。当初は不定期に授与されていましたが、1995年以降は毎年欠かさず、世界の第一線で活躍する研究者たちに贈られています。この賞の目的は、免疫系の基本的なメカニズムの解明や、免疫系を利用した癌の診断・治療法開発など、免疫学と癌免疫学の発展に寄与する革新的な研究を奨励し、その成果を広く認識させることにあります。

賞の内容

受賞者には、栄誉とともに5,000米ドルの賞金が贈られます。複数の研究者が共同で受賞することもあります。

受賞者の功績

ウィリアム・コーリー賞の受賞者リストには、その後のノーベル生理学・医学賞など、他の主要な国際賞を受賞する研究者が数多く含まれており、この賞が分野における重要なブレークスルーを早期に評価する役割を果たしていることが示されています。

例えば、

2005年に受賞したジェームズ・P・アリソン氏、そして2014年に受賞した本庶佑氏は、それぞれ独立に免疫チェックポイント分子（CTLA-4やPD-1）の機能解析を行い、癌に対する免疫療法の画期的な発展に貢献しました。両氏はその業績により、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
2021年に受賞したカリコー・カタリン氏とドリュー・ワイスマン氏は、mRNA技術に関する基盤的な発見を行い、新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチンの開発を可能にしました。両氏は2023年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

他にも、ロルフ・ツィンカーナーゲル氏（1987年、MHC拘束性の発見、1996年ノーベル賞）、ラルフ・スタインマン氏（1998年、樹状細胞の発見、2011年ノーベル賞）、ジュール・ホフマン氏（2003年、自然免疫活性化の発見、2011年ノーベル賞）、ブルース・ボイトラー氏（2006年、自然免疫活性化の発見、2011年ノーベル賞）など、後にノーベル賞に輝いた研究者たちがこの賞を受けています。これらの例からも、ウィリアム・コーリー賞が当該分野における最も革新的で影響力のある研究を選出し、その重要性を世界に知らしめる上で中心的な役割を担っていることが分かります。

日本人研究者では、制御性T細胞の発見で知られる坂口志文氏（2004年）、自然免疫のTLRシグナル伝達研究で知られる審良静男氏（2006年）、腫瘍免疫微小環境研究の大谷明夫氏（2010年）、そして前述の本庶佑氏（2014年）が受賞しており、日本の免疫学・癌免疫学研究が高い水準にあることを示しています。

意義

ウィリアム・コーリー賞は、癌免疫療法という現代医学において最も有望な治療法の一つを築き上げたウィリアム・コーリー医師の遺志を受け継ぎ、免疫学と癌免疫学のフロンティアを開拓する研究者たちを称賛し続けています。この賞は、これらの分野におけるさらなる研究開発を促進し、将来的な診断・治療法の進歩に貢献するための重要なインセンティブとなっています。

毎年発表される受賞者は、世界中の研究者にとって大きな目標となるとともに、これらの分野の最新の研究動向を知る上で重要な情報源となっています。2024年にはMark Anderson氏、Christophe Benoist氏、Diane Mathis氏が受賞するなど、今日に至るまで、最先端の研究が継続的に評価されています。

このように、ウィリアム・コーリー賞は、基礎免疫学および癌免疫学の発展に不可欠な役割を果たしており、医学の進歩に貢献する多くの重要な発見を世に送り出すきっかけとなっています。

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