ウィリー・モレッティ

ウィリー・モレッティ：ジェノヴェーゼ・ファミリーの影の支配者

1894年、ニューヨークに生まれたウィリー・モレッティは、イタリア移民の両親を持つイタリア系アメリカ人だった。イースト・ハーレムで育ち、牛乳配達などの仕事をしながら、後のマフィア仲間となるフランク・コステロと親交を深める。若くして犯罪に手を染め、強盗や密輸に関与。シチリア派閥とカラブリア派閥の仲介役として活動し、ニューヨークのマフィア社会で頭角を現していく。

1920年代にはニューヨーク州ナイアガラ・フォールズに移り、レストラン経営や賭博、密輸で富を築く。その後、ニュージャージー州を縄張りとし、ジョー・マッセリア率いるマフィアの組織内で頭角を現し、ニュージャージー支部を統率するまでに至る。1930年代のカステランマレーゼ戦争では暗殺の標的になるも、難を逃れる。マッセリアの死後、ラッキー・ルチアーノがファミリーの実権を握ると、モレッティはニュージャージー地区を管理する幹部としてその地位を維持した。

禁酒法の廃止後、モレッティは賭博業に力を入れ、ニューアークやジャージーシティなどで多くのカジノを運営。ナイトクラブ「リヴィエラ」を拠点に、ナンバーズやスポーツ賭博で巨額の利益を上げる。警察との癒着も深く、賄賂を用いて保護を受けていたとされる。賭博以外にも、ランドリー、たばこ販売、運送業など様々な事業を展開し、資金洗浄を行っていた。

モレッティは歌手フランク・シナトラとも親交を深め、シナトラを自身のナイトクラブに出演させるなど、芸能界にも影響力を持っていた。シナトラの最初の妻はモレッティの部下のいとこであったことからも、その親密さが伺える。さらに、ディーン・マーティンやジェリー・ルイスらも、モレッティのナイトクラブに出演するようになる。

1950年、アメリカ上院のキーフォーヴァー委員会が組織犯罪の調査を開始。モレッティも召喚されるが、他のギャングと異なり、積極的に証言する。ジョークを交えながら委員会で話す姿はメディアの注目を集め、人気者になった。熱心なカトリック信者でありながら、私生活では奔放な面も見せていた。

しかし、1951年10月4日、モレッティはニュージャージーのレストランで暗殺される。至近距離から5発の銃弾を浴び、即死した。事件後、警察は容疑者を逮捕するも、証拠不十分で釈放された。マフィアの沈黙の掟を破ったことによる粛清説が広く信じられている。しかし、キーフォーヴァー委員会への証言内容からは、マフィア組織を壊滅させるような核心に触れる情報は出ておらず、その死の真相は謎に包まれたままだ。近年では、モレッティの証言によって脅威を感じた地元警官が暗殺に関与したという説も浮上している。モレッティの死後、ニュージャージーの賭博利権はジェノヴェーゼ・ファミリーのジェラルド・カテナが引き継ぐことになる。

モレッティの生涯は、アメリカマフィアの歴史において重要な一端を担っており、その謎多き暗殺は現代に至るまで様々な憶測を呼び続けている。映画『ゴッドファーザー』のモデルにもなったとされ、その人生は今もなお人々の興味を惹きつけてやまない。彼の死後、弟のサルヴァトーレも監獄で死亡しており、殺害説もささやかれている。数々の謎を残したまま、ウィリー・モレッティの物語は幕を閉じたのだ。

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