ウェスターンの旅

城卓矢『ウェスターンの旅』

1967年1月、日本の音楽シーンに一つの個性を放つアルバムが登場しました。それが、歌手・城卓矢による『ウェスターンの旅』です。本作は、当時活発なリリースを行っていた東芝音楽工業から発表され、主に歌謡曲のフィールドで知られていた城卓矢が、彼自身の音楽的な情熱を注いでいたウェスタンやカントリーミュージックの世界を深く掘り下げた作品となっています。

城卓矢の持つ、情感豊かで表現力のある歌声は多くの聴衆を魅了してきましたが、このアルバムでは、アメリカ南西部や大平原を思わせるサウンドに乗せ、新たな一面を開花させています。それは、単に流行を追うのではなく、自身のルーツや心惹かれる音楽ジャンルへの真摯な向き合い方を示すものであり、彼のキャリアを語る上で欠かせない一枚と言えるでしょう。

本作の音楽性を特徴づけているのは、日本のカントリーミュージック界を牽引してきた原田実と、彼が率いる卓越したバンド、ワゴン・エースによる演奏です。彼らの経験に裏打ちされた技巧と、カントリーミュージックへの深い理解が、アルバム全体のサウンドに奥行きとauthenticity（信頼性）を与えています。特に、原田実自身が奏でるスティール・ギターの音色は、楽曲に温かみと同時に切ない響きをもたらし、リスナーをあたかも遠い異国の風景へと誘うかのようです。原田実はバンドの演奏のみならず、収録曲のアレンジも担当しており、アルバム全体の統一された空気感を創り出す上で中心的な役割を果たしています。

『ウェスターンの旅』には、長い歴史を持つカントリーソングのスタンダードから、旅や人間模様をテーマにした楽曲まで、バラエティ豊かな全12曲が収められています。収録曲はアナログレコードのSide 1とSide 2に分かれて構成されています。

収録曲

Side 1

北風
カウ・ライジャ
テネシー・ワルツ
モリー・ダーリン
キャトル・コール
コールド・コールド・ハート

Side 2

峠の我が家
アルパイン・ミルクマン
たそがれのワルツ (知りたくないの)
淋しき汽車
ホンキー・トンク・マン
新聞売りのジミー少年

これらの収録曲には、「テネシー・ワルツ」や「峠の我が家」といった、時代を超えて愛される名曲のカバーが含まれています。城卓矢はこれらの楽曲を、自身の解釈と表現力で歌い上げ、原田実とワゴン・エースの伴奏がそれを力強く、あるいは優しく支えています。特に、「淋しき汽車」や「北風」といったタイトルからは、日本の叙情性とも通じるような、哀愁や旅愁といったテーマ性が感じられます。これらの楽曲は、単なる物真似ではなく、日本のアーティストがウェスタン・カントリー音楽を自身の血肉とし、昇華させた成果と言えるでしょう。

本作は、城卓矢という優れたボーカリストが、彼が愛したウェスタン音楽に深く向き合った証であり、また、日本におけるウェスタン・カントリー音楽の系譜においても重要な位置を占めるアルバムです。原田実とワゴン・エースとの協演は、まさに理想的な組み合わせであり、その相乗効果がこのアルバムの価値を高めています。

このアルバムに関する情報の多くは、リリース当時のライナーノーツに基づいています。『ウェスターンの旅』は、城卓矢の多様な音楽性と、日本のウェスタン・カントリーシーンの豊かな歴史を改めて知る上で、貴重な作品と言えるでしょう。

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