ウェデヒ家の一員の肖像、おそらくヘルマン・ウェデヒ

ウェデヒ家の一員の肖像、おそらくヘルマン・ウェデヒ

この作品は、ドイツ・ルネサンス期の著名な画家、ハンス・ホルバイン (子) によって描かれた肖像画で、「ウェデヒ家の一員の肖像、おそらくヘルマン・ウェデヒ」として知られています。油彩が用いられたオーク材の板がキャンバスになっており、モデルはケルンのウェデヒ家の一員であったヘルマン・フォン・ウェデヒ3世とされております。この作品は1940年にエドワード・S・ハークネスから寄贈され、以来ニューヨークのメトロポリタン美術館で所蔵されています。

背景と制作過程

1530年代、ホルバインはロンドンのスティールヤードで活動するハンザ同盟の裕福な商人たちの肖像を依頼されました。制作にあたり、彼はスティールヤードにいる8人の商人たちの似顔絵を描くことを求められました。彼が描いた人物には、グダンスクの『ゲオルク・ギーゼ』や、アントワープのハンス、ケルンのヒレブラント・ウェデヒ、そしてウェデヒ家の不明な人物たちが含まれています。

作品中のモデルは、ウェデヒ家の紋章が刻まれた指輪をはめており、これにより彼がヘルマン・ウェデヒであると特定されています。また、下部左側の小さな祈祷書に挟まれた紙にはプブリウス・テレンティウス・アフェルが書いた喜劇『アンドロス島の女』の引用「真実は憎悪を生む」が記されています。この言葉は祈祷書の内容に加え、モデルの個人的な信念をも示唆している可能性があります。

作品の特徴

画中のヘルマン・ウェデヒの右目は左目よりも大きく、右の眉が高く描かれており、これらの特徴は先述したベルリン絵画館所蔵の『ヘルマン・ヒレブラント・デ・ウェデヒの肖像』と共通しています。ホルバインは、この両者の右目を強調することで、鑑賞者に似たような家族的特徴を強調させようとしたのかもしれません。

さらに、二人の指輪に描かれた紋章は、神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世が1503年にラインラントのハインリヒ・フォン・ウェデヒに授与したものであり、歴史的にも重要です。ウェデヒ家の何人かのメンバーが1480年以降、スティールヤードで商人としての活動を行っていたことも、この作品の背景に影響を与えています。

結論

「ウェデヒ家の一員の肖像、おそらくヘルマン・ウェデヒ」は、ホルバインの技術力と秀逸さを示す一作であり、商人としての身分や家族の歴史を視覚的に物語っています。この作品は、当時の社会的状況や家族の関係、さらには個人のアイデンティティーを描写した貴重なアートピースとして、多くの観覧者に親しまれています。

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